
はじめに
抗リン脂質抗体(aPL)は不育症の原因の一つとされ、なかでも谷村らが報告した抗β2GPI/HLA-DR自己抗体(ネオセルフ抗体)は、抗リン脂質抗体症候群、不育症、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、さらにはRIFとの関連が指摘されています。今回、RIFおよびRPL女性における子宮内膜マイクロバイオーム、CE、抗β2GPI/HLA-DR抗体の三者の関連を検討した横断研究をご紹介いたします。
ポイント
RIF女性では抗β2GPI/HLA-DR抗体陽性が子宮内膜dysbiosisと独立して関連し、子宮内環境異常のバイオマーカーとなる可能性があります。
引用文献
Yosuke Ono, et al. Reprod Med Biol. 2026;25:e70049. doi: 10.1002/rmb2.70049.
論文内容
RIFおよびRPL女性における子宮内膜マイクロバイオーム、CE、血清抗β2GPI/HLA-DR抗体の関連を検討することを目的とした横断観察研究です。
2021年3月から2025年8月までに国内二施設にて、RIFまたはRPLと診断され、同一月経周期内にCD138免疫染色によるCE評価、16S rRNAシーケンスによる子宮内膜マイクロバイオーム解析、血清抗β2GPI/HLA-DR抗体測定を受けた女性141人(RIF 54人、RPL 87人、両者合併13人)を対象としました。RIFは胚移植3回以上で臨床妊娠未達成、RPLは22週未満の流産・死産2回以上と定義しました。子宮内膜検体は黄体期中期にPipet Curetで採取し、CEはLiu基準(>5.15 plasma cells/10mm²)で診断しました。抗体カットオフは健常者374例の99パーセンタイル(73.3 U)と95パーセンタイル(61.9 U)を採用しました。生殖障害関連菌(Gardnerella、Prevotella、Atopobium、Dialister、Anaerococcus、Ureaplasma、Mycoplasma)のいずれかの検出を「reproductive-failure-related bacterial species陽性」と定義しました。
結果
95パーセンタイルカットオフで抗体陽性群においてLactobacillus inersの検出頻度(62.5% vs. 33.7%、p=0.017)、Anaerococcus属の検出頻度(25.0% vs. 4.8%、p=0.005)が有意に高値でした。CE頻度、CD138陽性形質細胞数、Lactobacillus優勢(>90%)の頻度には差はありませんでした。
RIFコホートでは、抗体陽性群でLactobacillus inersの検出頻度(99パーセンタイル:71.4% vs. 23.4%、p=0.019;95パーセンタイル:70.0% vs. 20.5%、p=0.004)と相対存在量(95パーセンタイル:0.1% vs. 0%、p=0.026)がいずれも有意に高値でした。Prevotella属(99パーセンタイル:71.4% vs. 27.7%、p=0.034)、Anaerococcus属(95パーセンタイル:30.0% vs. 4.5%、p=0.037)、Ureaplasma属(95パーセンタイル:30.0% vs. 2.3%、p=0.016)も抗体陽性群で多く検出されました。生殖障害関連菌陽性率も抗体陽性群で有意に高値でした(99パーセンタイル:100% vs. 51.1%、p=0.016;95パーセンタイル:90.0% vs. 52.3%、p=0.032)。一方、CE頻度には差はありませんでした(95パーセンタイル:10.0% vs. 13.6%)。多変量ロジスティック回帰解析(95パーセンタイル)では、生殖障害関連菌(OR 9.64、95%CI 1.23–216.0、p=0.029)とLactobacillus iners(OR 13.1、95%CI 2.32–122.0、p=0.003)が抗体陽性と独立して関連していました。
RPLコホートでは、抗体陽性群においてAnaerococcus属の検出頻度のみ有意に高値(99パーセンタイル:25.0% vs. 4.2%、p=0.020;95パーセンタイル:23.5% vs. 4.3%、p=0.034)でしたが、Lactobacillus iners、CE頻度、生殖障害関連菌全体の頻度には差はありませんでした。
従来のaPL(LA、aCL、抗β2GPI抗体)陽性は、RIF、RPLいずれにおいても子宮内膜マイクロバイオームやCEとの有意な関連を示しませんでした。
私見
RPLでは脱落膜・胎盤血管内皮でのβ2GPI/HLA-DR複合体発現と着床後の補体活性化・血栓形成が病態の中心と考えられる一方(Tanimura KT, et al. Blood. 2015)、RIFでは着床前の子宮内膜環境におけるdysbiosis関連局所炎症がβ2GPI/HLA-DR発現を誘導し、ネオセルフ抗原提示と自己抗体産生に寄与する可能性があるとしています。
CE頻度が抗体陽性・陰性で差を示さなかった点も重要です。これはCD138陽性形質細胞による組織学的CE診断が、dysbiosisの早期段階や非典型的炎症を捉えきれていない可能性を示唆します。先行研究ではCEとdysbiosis(Lactobacillus減少、嫌気性菌増加)の強い関連が示されていますが、本研究では抗体陽性は必ずしもCEを伴わずdysbiosisと関連しており、組織学的CEに先行する微小炎症環境を抗体が反映している可能性があります。
抗β2GPI/HLA-DR抗体は子宮内膜環境のサロゲートマーカーとなり得るとの結論は臨床的に意義深く、RIF診療においてdysbiosis検出例には抗体測定を、抗体陽性例には子宮内膜マイクロバイオーム評価を、双方向的に検討する価値があると考えます。
抗β2GPI/HLA-DR自己抗体カットオフは健常者374例の99パーセンタイル(73.3 U)と95パーセンタイル(61.9 U)というのも大事なポイントだと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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