体外受精

2026.07.14

反復着床不全女性に対する外来子宮鏡検査の有効性_TROPHY試験(Lancet. 2016)

はじめに

子宮内病変は体外受精を受ける不妊女性の最大25%、反復着床不全女性では最大50%に認められると報告されており、子宮鏡による診断・治療がアウトカムを改善する可能性が示唆されてきました。先行のメタアナリシスでは反復着床不全女性に対する体外受精前の外来子宮鏡検査が臨床妊娠率を有意に向上させる可能性が示されていましたが、含まれた研究の質は低く、明確な結論を導くには大規模な無作為化比較試験が必要とされていました。今回、欧州8施設で実施された多施設共同RCTであるTROPHY試験をご紹介いたします。

ポイント

経腟超音波で子宮腔が正常な反復着床不全女性に対し、体外受精前の外来子宮鏡検査は出生率を改善しませんでした。

引用文献

Tarek El-Toukhy, et al. Lancet. 2016 Jun 25;387(10038):2614-2621. doi: 10.1016/S0140-6736(16)00258-0.

論文内容

反復着床不全女性に対する体外受精前の外来子宮鏡検査が出生率を改善するかどうかを評価することを目的とした、英国・ベルギー・イタリア・チェコ共和国の8病院で実施された多施設共同無作為化比較試験です。
対象は38歳未満で、経腟超音波による子宮腔評価が正常であり、過去に2~4回の体外受精胚移植サイクル(新鮮胚または凍結融解胚)が不成功に終わり、次の体外受精(ICSIの有無を問わず)治療サイクルを予定している女性としました。37歳の女性は前回の体外受精サイクルで8個以上の卵子が採取された場合に限り組み入れ可能としました。除外基準は、無作為化前2か月以内の子宮鏡検査歴、超音波で子宮腔を歪ませる粘膜下または筋層内子宮筋腫、未治療の卵管留水症、BMI 35 kg/m²超としました。独立したweb based trial management systemを用いて1:1の比率で外来子宮鏡群と対照群(子宮鏡なし)に無作為割り付けを行い、年齢(30歳以下 vs 31~37歳)、BMI(30未満 vs 30~35 kg/m²)、過去の不成功体外受精サイクル数(2回 vs 3~4回)、基礎FSH値(10 IU/L未満 vs 10 IU/L以上)について最小化法でバランスを取りました。子宮鏡群では月経開始後14日以内に外来で子宮鏡検査(30°視野・直径2.9 mmのTROPHYscope使用)を実施し、翌月の月経周期から標準的な体外受精プロトコルで治療を開始しました。すなわち子宮鏡から胚移植までは概ね4~6週間の間隔がありました。主要評価項目は妊娠24週を超えた出生率とし、intention-to-treat解析を行いました。副次評価項目として、妊娠率(採卵後16日目の市販尿検査キットによるhCG陽性判定で定義、生化学的妊娠を含む)、臨床妊娠率(胚移植後4週以降の超音波検査で胎児心拍を確認した症例の割合)、着床率(胚移植後4週以降の超音波検査で確認された子宮内胎嚢数を移植胚数で除した値、胚単位での評価)、流産率を評価しました。

結果

2010年1月1日から2013年12月31日の間に702人の女性を組み入れ、子宮鏡群350人、対照群352人に割り付けました。両群のベースライン特性はバランスがとれており、平均年齢33.0歳、過去の不成功体外受精サイクル数は両群とも平均2.7回でした。子宮鏡群では323人(93%)に外来子宮鏡が実施され、85人(323人中26%)に何らかの異常所見が認められました。所見は3カテゴリーに分類され、頸管異常14件(外子宮口狭窄3、内子宮口狭窄4、頸管癒着3、頸管偏位2、頸管ポリープ1、頸管短縮1)、子宮腔異常34件(弓状子宮腔15、片側子宮3、子宮内膜ポリープ8、部分的子宮中隔5、粘膜下筋腫2、T字型子宮腔1)、軽微な内膜異常41件(過血管化20、粘膜挙上12、マイクロポリープ3、淡い内膜3、内膜欠損2、単一癒着帯1)でした(4人で過血管化と弓状子宮腔が重複)。実際に外科的治療が行われたのは34例の子宮腔異常のうち15例(子宮内膜ポリープ切除8、部分的子宮中隔切除4、粘膜下筋腫切除2、T字型子宮腔1)にとどまり、弓状子宮腔15例、片側子宮3例、部分的子宮中隔1例には「治療不能」または「臨床的意義が不明」として外科的介入は行われませんでした。子宮鏡検査の所要時間中央値は7分(IQR 5~10)、術後退院までの時間中央値は10分(6~30)で、子宮鏡関連合併症は報告されませんでした。
主要評価項目である出生率(intention-to-treat解析)は、子宮鏡群102/350人(29%)対対照群102/352人(29%)であり、両群間に有意差は認められませんでした(RR 1.0、95%CI 0.79–1.25、p=0.96)。8施設間で出生率に有意な異質性は認められませんでした(I²=0%、p=0.62)。年齢、BMI、基礎FSH値、過去の不成功体外受精サイクル数、参加施設で調整しても出生率に差はありませんでした(adjusted RR 0.99、95%CI 0.79–1.24、p=0.95)。Post-hocのper-protocol解析(プロトコルを遵守し胚移植まで到達した子宮鏡群295人 vs 対照群296人)でも、出生率は子宮鏡群94/295人(32%)対対照群97/296人(33%)(RR 0.97、95%CI 0.77–1.23、p=0.81)と、ITT解析と一致した結果でした。胚移植実施者あたりの出生率(95/301人 32% vs 96/290人 33%、RR 0.95、95%CI 0.76–1.20)、最良胚移植実施者あたりの出生率(82/232人 35% vs 86/236人 36%、RR 0.98、95%CI 0.81–1.24)でも同様に有意差はありませんでした。なお胚移植は新鮮胚移植が大多数を占め(子宮鏡群292/301例、対照群277/290例)、平均移植胚数は両群とも1.8個(SD 0.5)、移植日はDay 2が24%、Day 3-4が35%、Day 5-6が40%と両群でほぼ同一でした。
副次評価項目では、妊娠率は子宮鏡群133/350人(38%)対対照群136/352人(39%)(RR 0.97、95%CI 0.72–1.32、p=0.86)、臨床妊娠率は121/350人(35%)対116/352人(33%)(RR 1.08、95%CI 0.79–1.47、p=0.65)、流産率は子宮鏡群29/133人(22%)対対照群33/136人(24%)(RR 0.91、95%CI 0.59–1.40、p=0.65)でいずれも両群間に有意差はありませんでした。胚移植が行われたサイクルでの着床率は、子宮鏡群29%(155/535)対対照群30%(157/517)(RR 0.91、95%CI 0.61–1.37)でした。
事前規定のサブグループ解析では、子宮鏡で正常所見だった女性の出生率は66/238人(28%)、何らかの異常所見が認められた女性は26/85人(30%)であり、いずれも対照群と有意差はありませんでした(それぞれRR 0.96、95%CI 0.74–1.24、p=0.74;RR 1.06、95%CI 0.74–1.51、p=0.76)。なお外科的治療を受けた症例(15例)と治療を受けなかった異常所見症例の出生率を直接比較した解析は本試験では行われていません。軽微な内膜異常を有した41人のうち14人(33%)が出生に至りました(過血管化8/20、粘膜挙上3/12、マイクロポリープ1/3、淡い内膜1/3、内膜欠損1/2)。Post-hoc解析として、過去に子宮鏡検査歴のない女性のみで比較しても出生率に有意差はなく(子宮鏡群65/193人(34%)対対照群61/198人(31%)、RR 1.09、95%CI 0.82–1.46、p=0.48)、過去の不成功体外受精サイクルが2回の女性、3回以上の女性のいずれのサブグループでも出生率に有意差はありませんでした。

私見

子宮鏡が体外受精成績を改善するメカニズムとして、(1) 未診断の子宮内病変の発見・治療、(2) 子宮内膜への物理的刺激(endometrial injury)による着床能改善、(3) 移植困難症例での頸管確保による胚移植手技の最適化、の3つが提唱されてきました(Fatemi HM, et al. Hum Reprod. 2010;Potdar N, et al. Reprod Biomed Online. 2012)。
慢性子宮内膜炎のついての細かい病変を意識した研究ではないため、今後inSIGHT試験もそうですが、どこかで時代にあった試験の焼き直し(凍結融解胚盤胞移植メインで、CEを意識した治療戦略)が必要なのだろうと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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