体外受精

2026.07.30

びまん性子宮平滑筋腫症(DUL)に対する術後の妊娠・出産(当院関連論文:BMC Pregnancy Childbirth. 2026)

はじめに

びまん性子宮平滑筋腫症(DUL)は、無数の平滑筋腫が子宮筋層をびまん性に置換する稀な疾患です。子宮腔の変形により反復着床不全を来し、生殖補助医療を行っても妊娠に至らないことが多いとされます。今回、反復着床不全を呈したDUL患者に広汎子宮筋腫核出術を施行し、出産に至った症例報告をご紹介いたします。

ポイント

DULに対する広汎子宮筋腫核出術は重度の子宮腔変形と反復着床不全を伴うDUL患者で妊孕性温存の選択肢となり得ますが、術後妊娠は子宮破裂・PASを念頭に置いた高リスク妊娠として厳重な管理を要します。

引用文献

Okunaka A, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2026. doi: 10.1186/s12884-026-09644-7

論文内容

29歳未経妊のDUL女性が、複数回のARTでも反復着床不全となり紹介されました。27歳時に過多月経で多発子宮筋腫と診断、29〜31歳に3回の採卵と4回の単一胚盤胞移植(すべてGardner良好胚:4AA・4BA・4BA・4BB)を行うも着床せず。32歳時の初回筋腫核出術で25個を摘出しましたが、その後3回の胚盤胞移植(子宮内膜受容能検査に基づく移植時期調整を含む)でも着床せず、通算7回の移植が反復着床不全となりました(PGT-A未実施)。筋腫の新生・遺残でDULが進行したため、34歳時に縦正中切開による広汎子宮筋腫核出術を施行し、148個(大半が3cm未満)を摘出しました。子宮頸部の一時的駆血と希釈バゾプレシン(1:100)局注下に、内膜腔を温存しつつ結節を順次核出し、3層縫合で子宮を再建しました。術後3か月の子宮鏡では粘膜下筋腫の突出はないものの内膜再生は不十分で、内膜再生を待ち移植を3か月延期しました。広汎核出後の初回移植で妊娠成立するも流産、2回目(通算9回目)の移植で35歳時に妊娠が成立しました。

妊娠中は連続的な超音波・MRIで筋層菲薄化・子宮破裂徴候・PASを監視しました。妊娠10週で子宮筋層の著明な菲薄化(最小2.3 mm)を認め、以降進行して最菲薄部は約1 mmとなりました。19週で胎盤ラクナ、26週MRIで軽度の子宮膨隆、27週で後胎盤clear zoneの消失、28週で頸管長短縮を認め入院管理となりました。30週MRIで胎盤内の限局性低信号(T2-dark sign)、34週で筋層–胎盤界面の断裂を認めPASが疑われました。児発育は妊娠週数相当で、自己血を準備のうえ36週で待機的帝王切開を施行しました。PAS懸念のため術中超音波で無胎盤部を確認し、胎盤切断を避ける修正J字切開を下部子宮に置きました。児娩出後、子宮底側の胎盤は自然剥離せず用手剥離を要しましたが一部遺残し、持続出血に対し子宮切開部縫合と子宮内バルーンタンポナーデで止血しました。羊水を含む総出血量2068 ml、自己血1200 mlを返血し同種輸血は不要でした。健常男児3261 gを娩出し、産褥経過は良好、4か月で月経が再開し遺残胎盤は不明瞭化しました。術後1年のMRIでは少数の筋層内筋腫のみでDUL再発はなく、子宮鏡で平滑な子宮腔を確認、2年経過観察中で第2子を希望しています。

私見

DULによる広汎子宮筋腫核出後が奏功し出生に至ったという報告は過去にもあります。Otsubo Y, et al. Arch Gynecol Obstet. 2014(100個摘出、自然妊娠、35週帝切)、Nishida M, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2014(本術式の原法)、Kitaya K, et al. Clin Exp Obstet Gynecol. 2014(≥80個、ART、34週帝切)、Suminaga Y, et al. Case Rep Obstet Gynecol. 2022(49個、IUI、32週帝切、癒着性イレウス合併)、Yamamoto K, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2025(79個、ART、34週帝切後に子宮全摘)

本症例は全置換型DUL(Ishikawa H, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2025)に相当し、粘膜下優位型と異なり子宮鏡手術単独では着床不全改善が困難と判断された点が、広汎子宮筋腫核出を選択した根拠と考えています。
本症例の不妊治療・周産期管理には、当院(亀田IVFクリニック幕張)も生殖補助医療の面で携わらせていただきました。患者様が無事に元気なお子様を出産されましたことを、心よりお喜び申し上げます。DULは稀な疾患であり確立された治療戦略はまだありませんが、婦人科・生殖医療・周産期の連携による個別化した管理が、こうした難しい症例でも良好な結果につながり得ることを示す貴重な経過と考えております。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 手術

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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