
はじめに
難治性不妊症の一部には母体免疫系の関与が指摘されており、末梢血におけるTh1/Th2比の上昇、Treg細胞の減少、Th17/Treg比の不均衡、NK細胞数および活性の増加などが報告されています。今回、Th1優位サイトカインパターンを示す原因不明難治性不妊症女性に対する免疫抑制剤タクロリムスの有効性と安全性を検討した国内多施設共同臨床試験をご紹介いたします。
ポイント
Th1/Th2細胞比≥10.3の原因不明難治性不妊症女性に対するタクロリムス2mgまたは4mg/日(16日間)投与で、臨床妊娠率は55–67%と有意に上昇し、安全性も確認されました。
引用文献
Michi Hisano, et al. J Reprod Immunol. 2026;175:104904. doi: 10.1016/j.jri.2026.104904.
論文内容
免疫抑制剤タクロリムスが原因不明難治性不妊症女性に対して有効かつ安全な治療選択肢となりうるかを検証することを目的とした、本邦4施設による2用量単群比較試験です。
対象は適切な不妊症評価にもかかわらず背景因子を認めず、末梢血のTh1/Th2(IFN-γ+ CD4+/IL-4+ CD4+)細胞比≥10.3を示すTh1優位サイトカインパターンを呈する18–40歳の女性です。難治性不妊症は、形態学的に良好な受精胚を用いた胚移植を3回以上(合計4個以上の受精胚を使用)行ったにもかかわらず生化学的妊娠に至らないものと定義しました。慢性子宮内膜炎は登録前の組織学的検査で子宮内膜間質の10視野中にCD138陽性形質細胞が5個以上あるものと定義し、これを認める症例は除外しました。患者は2:1の割合でタクロリムス1日2mg投与群(低用量群)または4mg投与群(高用量群)に無作為に割り付けられました。タクロリムスは胚移植の2日前から計16日間(1日2回)経口投与されました。胚移植は5–6日齢の形態学的に良好な受精胚1–2個を、自然排卵周期またはホルモン調整周期下で施行しました(PGT-Aは未施行)。主要評価項目は胚移植3週後の臨床妊娠(経腟超音波検査による胎囊確認)、副次評価項目は胚移植2週後の生化学的妊娠(血清hCG値≥20 IU/L、子宮外妊娠は除外)の有無としました。無治療なら妊娠率はせいぜい5%程度のはず、という仮想的なハードルを設定し、2用量を別々に検定するため有意水準を厳しくして(0.0125)、サンプルサイズが小さいので正確な計算法(二項検定)を使って、上回るかどうかを片側で判定しました。
結果
2023年5月から2024年10月までに90名が適格性評価され、26名が無作為化されました(低用量群17名、高用量群9名)。Full Analysis Set(FAS)には24名(低用量15名、高用量9名)、Per Protocol Set(PPS)には20名が含まれました。胚移植3週後の臨床妊娠率(主要評価項目)は、低用量群66.7%(10/15、95% CI 38.4–88.2)、高用量群55.6%(5/9、95% CI 21.2–86.3)であり、両群とも基準値5%との比較で統計学的に有意でした(いずれもp<0.0001)。胚移植2週後の生化学的妊娠率(副次評価項目)も同一の値(低用量群66.7%、高用量群55.6%)であり、主要評価項目と一致しました。PPSではさらに高値(低用量群75.0%、高用量群62.5%)でした。年齢(<35歳または≥35歳)、Th1/Th2細胞比(<14.9または≥14.9)、NK細胞活性(<30%または≥30%)によるサブグループ解析では有意差は認められませんでした。安全性評価では子宮外妊娠は両群とも認められず、有害事象は低用量群0%(0/17)、高用量群11.1%(1/9)に認められ、1例はグレード1の掻痒(副作用と判定)でした。重篤な有害事象やグレード2以上の有害事象は認められませんでした。探索的解析では、活性化Treg(Foxp3high CD25+ CD4+)/Treg(Foxp3+ CD25+ CD4+)細胞比が生化学的妊娠と関連する傾向は示されたものの有意差はなく(OR 139.739、95% CI 0.001–>999.999、P=0.4130)、その他の免疫学的パラメータと生化学的妊娠との関連も認められませんでした。
私見
タクロリムスは固形臓器移植後妊娠例における安全性データの集積があり(A. Kainz, et al. Transplantation, 2000、A.B. Jain, et al. Transplantation, 2003, 2004)、現在は不妊治療における短期投与例の母体・胎児・新生児予後を評価する観察研究が進行中とのことです。
適応指標としての末梢血Th1/Th2細胞比≥10.3は、正常分娩歴のある28名の平均値に1標準偏差を加えて設定された経験値ですが(K. Nakagawa, et al. Am J Reprod Immunol, 2015)、末梢血指標が子宮内膜の免疫プロファイルを正確に反映するエビデンスは不十分であり、分母であるTh2細胞比率が低いため変動係数が大きい点にも留意が必要と著者ら自身が述べています。
今後、保険適用のなか、どのように国内で位置付けされていくか注視していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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