
はじめに
ARTでは、卵巣刺激プロトコルの最適化が治療成績を左右します。FSHが卵胞発育を開始させる一方、LHはステロイド産生・卵子成熟・子宮内膜受容能に関与すると考えられています。
視床下部性無月経を伴う性腺刺激ホルモン分泌不全症(hypogonadotropic hypogonadism)以外でのLH活性補充の意義については議論が続いています。本稿は、LH活性を「誰に・いつ・どの製剤で」補充するかという個別化の観点を、生物学的基盤と臨床エビデンスの両面から整理したナラティブレビューです。
ポイント
LHはFSHと並んで卵胞発育に不可欠であり、特定の患者群(LH分泌不全、低反応・低予備能、高齢、高反応・PCOS、新鮮胚移植予定例など)では補充が有益で、安全性とコストも踏まえると刺激への併用を標準的選択肢として考慮されます。
引用文献
Bellver J, et al. Reprod Biomed Online. 2026;52(2):105154. doi: 10.1016/j.rbmo.2025.105154.
論文内容
ARTにおけるLH活性の意義を、分子生物学的基盤から患者個別化の観点まで包括的に整理したナラティブレビューです。LHは共通のα鎖と固有のβ鎖(121アミノ酸)からなる糖蛋白で、LH/HCG受容体(LHCGR)を介して作用します。LHは半減期が短く(約20〜30分)ERK1/2・AKT経路を介して細胞増殖・生存を促す一方、HCGはC末端ペプチドにより半減期が長く(最大24〜36時間)、cAMP産生とステロイド産生(特にプロゲステロン)を強く誘導します。両者は同一受容体に結合しますが機能的には等価でない点が強調されています。
卵胞発育において総説はLHを「FSHと並んで不可欠」と位置づけています。初期はFSHが顆粒膜細胞の増殖を担いますが、後期の成熟・選択・黄体化にはLHシグナルが必要です。実際、LHCGRノックアウトマウスでは胞状期で発育が停止し、逆に14 mmを超えて選択された優位卵胞は、FSHを減らしてLH活性のみにしても発育を続けられます(Sullivan 1999、Filicori 2002)。これはLHがtheca細胞でアンドロゲン産生を促し、granulosa細胞でエストラジオールへ変換される機構(two-cell, two-gonadotrophin model)によります。この性質を利用し、後期に低用量LH活性を補えば、優位卵胞を育てつつ新規の小卵胞動員を抑え、OHSSリスクを下げうるとされます。FSHと異なり明確な天井効果がない点も併用しやすさの根拠です。
LH活性を供給する製剤は、HCG由来のLH活性をもつ尿由来HMG、組換えLH(rLH)、rFSH+rLH(2:1)の3型です。rFSHとの比較では、4件の大規模システマティックレビューでHMGの臨床妊娠率・出生率がわずかに高く、HMGアームの2/3超がHP-HMGであったことから、利益はLH活性に由来する可能性が指摘されています。ただしESHRE 2025ガイドラインは両者を同等に推奨し、LH補充の是非は明確なコンセンサスに至っていません。
患者群別の臨床エビデンス(誰に・いつ・どの製剤で) 本稿は患者プロファイル別に補充の妥当性を整理しています。
- 性腺刺激ホルモン分泌不全症(WHO type I)では補充は必須で、開始時から終始rFSH+rLH(2:1、例 150+75 IU)またはHMGを用います。
- 刺激中LHが著明に抑制された例(<0.5 mIU/ml)は着床率・妊娠率・出生率が低下し(Propst 2011)、早期→中期でLHが50%超低下した例も出生率低下と関連します(Lahoud 2006)。中期卵胞期LHを測定し低値なら追加、または予防的にrLH/HMGを併用します。
- 低反応・低予備能(poor responder/POSEIDON群3・4/採卵1〜3個)では、Lehert et al.(2014、6000周期超)でrLH補充により妊娠率が約9%上昇、poor responderでは相対リスク1.3(95%CI 1.01–1.67)でした。Humaidan et al.(2017)の大規模RCTは全体で有意差なしですが、中等度・重度の亜群で出生率が有意に高く、POSEIDON群3・4ではHMG早期開始で出生率改善・周期キャンセル減少が報告されています(Berker 2021)。いずれも開始時からの併用が推奨されます。
- FSH単独に低反応(hypo-responder)では、rFSH増量よりrLH追加が有効で(De Placido 2005)、採卵数・着床率・臨床妊娠率を有意に改善します(Conforti 2019)。
- 正常反応例(特に32歳以上・過体重/肥満)でもHMG/rLH併用で良好胚増加・妊娠率改善の報告があり(Smitz 2007、Liang 2024)、刺激期を通じて用います。
- 高反応例・OHSSリスク(PCOS、高AFC)では、Caserta et al.(2011、999例RCT)で7日目以降にrLH 75 IU/日を追加した群が臨床妊娠率で高く(16.8% vs 11.9%、P<0.05)、OHSSによるキャンセル(2.4% vs 8.3%)・臨床的OHSS(0.2% vs 1.6%)が有意に低下しました。高反応例ではHP-HMGがrFSHより継続妊娠率・出生率が高く、流産・OHSSが低いとされます(Witz 2020)。
- 高齢(35〜40歳)はエビデンスが不一致で、Conforti et al.(2021)は着床率・臨床妊娠率改善、Matorras et al.(2009)は出生率改善(19.0% vs 7.4%、P=0.047)を示す一方、König et al.(2013、刺激6日目開始)は有意差を認めませんでした。開始時(1日目)からのrFSH+rLH(2:1)が鍵で、後期追加は避けるべきとされます(Bosch 2014)。
- 新鮮胚移植予定例では、LH活性がトリガー前のプロゲステロン早期上昇を抑え妊娠・出生率を改善しうるとされ、最適なHMG/FSH比は0.3〜0.6です(Wesevich 2023)。
なおCozzolino et al.(2024)は総ゴナドトロピン量は異数性に影響しないが、HMG比率が高い例で異数性率が有意に低い(P=0.02、若年で顕著 P<0.001)と報告しています。
私見
生物学的には「LHは不可欠」と言い切る一方、臨床的には「明確なLH欠乏のない患者での利益は未確立」とも明記しており、二段構えの論調である点を読み解くことが重要です。
肯定的エビデンスとしては、Santi D, et al. Front Endocrinol. 2017(70 RCTメタアナリシス、PCOS除外)がHMG・rLHによるLH活性供給はHCGより良好な妊娠率と関連すると報告し、Conforti A, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2021(高齢12 RCTメタアナリシス)が患者層別での利益を支持しています。
一方、否定的・中立的エビデンスも本文に併記されています。Mochtar MH, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017は、IVF/ICSIにおけるrLH+rFSH対rFSH単独で出生率改善を支持する十分な根拠はないと結論し、König TE, et al. Hum Reprod. 2013(253例RCT、35歳以上、刺激6日目開始)では着床率・臨床妊娠率に有意差を認めませんでした。これらの不一致について著者は、LHの短い半減期と拍動性分泌、患者集団の異質性、補充開始時期(1日目開始が有利との仮説、Bosch 2014)の違いを要因として挙げています。
整理すると、必要性が高い順に、(a)明確なLH欠乏(WHO type I)、(b)深いLH抑制例(<0.5 mIU/ml)やGnRHアゴニスト法・PPOSによる過抑制例、(c)低予備能・hypo-responder、(d)新鮮移植でのプロゲステロン早期上昇抑制、と段階づけられます。
ESHRE卵巣刺激ガイドラインでは一般集団では卵巣刺激注射に差がないとする一方、症例ごとの最適化がすることが奏功する可能性は十分残っているのではないでしょうか。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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