体外受精

2021.11.06

卵巣予備能低下群に黄体期卵巣刺激はどう?(Reprod Biol Endocrinol. 2020)

はじめに

卵巣予備能低下群に黄体期卵巣刺激が一般的な月経中の卵巣刺激と比べてどうなのかを検討した論文をご紹介します。 

ポイント

卵巣予備能低下女性において、黄体期卵巣刺激と通常卵巣刺激を比較した結果、回収成熟卵子数や刺激期間に有意差はなく、黄体期卵巣刺激は通常卵巣刺激と同等の有効性があることが示されました。 

引用文献

Joaquín Llácer, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2020. DOI: 10.1186/s12958-020-00570-7

論文内容

ボローニャ基準を満たす卵巣予備能低下女性を対象に、黄体期卵巣刺激と通常卵巣刺激を比較した単施設前向き無作為化試験で、主要評価項目は回収成熟卵子数としています。 

結果

60名の女性が参加し、黄体期卵巣刺激を27名、通常卵巣刺激を30名に実施しました。両群での回収成熟卵子数には差がありませんでした(黄体期卵巣刺激 2.1±2.0 vs. 通常卵巣刺激 2.6±2.2、p=0.31)。刺激期間も両群で同様でした(黄体期卵巣刺激 8.35±2.8日 vs. 通常卵巣刺激 8.15±4.1日、p=0.69)。FSH総投与量、回収卵子数、卵子生存率、正常受精率、キャンセル率にも両群間で有意な差はありませんでした。 
黄体期卵巣刺激は通常卵巣刺激と同等の有効性があることがわかりました。 
刺激法はFSH225単位アンタゴニスト法を採用しています。黄体期スタートはLH+4、通常刺激は月経2-3日目より卵巣刺激開始しています。スペインで2016年2月から2017年12月に体外受精を行ったボローニャ基準を満たし、女性年齢<41歳、21~35日の定期的な月経周期を満たし、少なくとも1回の前周期で回収卵子数が4個未満の女性を対象としました。 

私見

当院では特殊な例(がん・生殖や早発卵胞発育症例など)を除き治療期間短縮のために卵巣予備能低下女性に対して黄体期卵巣刺激を積極的には行っていません。 
ただし、卵巣機能不全患者の黄体期卵巣刺激は今回の結果をみても悪い印象は受けませんし、過去の報告でも黄体期卵巣刺激で回収した卵子は胚盤胞到達率、胚異数性、妊娠率、出生率、周産期合併症、奇形率などが増悪することがない(Cimadomo D, et al. Hum Reprod. 2018. Chen H, et al. Fertil Steril. 2015)とされていますので、症例を選び実施を検討してみてもよいかもしれません。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

トリガーから採卵までの最適時間:GnRHアゴニストvs hCG(F S Rep. 2025)

2025.11.26

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14