体外受精

2022.04.27

rFSH製剤使用における日本人と白人の反応の違い(Reprod Biomed Online. 2022)

はじめに

生殖補助医療におけるゴナドトロピン治療に対する卵巣反応は民族によって異なることが報告されており、生物学的、遺伝的、環境的、食事的要因が関与していると推測されています。また、同じ用量のFSH製剤であれば、痩せ型の女性ではFSH濃度が高くなり、肥満女性ではFSH濃度が低くなることがわかっています。卵巣刺激を考える際、国々にあった方法を検討する必要があると考えます。今回、レコベル®皮下注ペン(フォリトロピンデルタ)の臨床試験での結果から日本人と白人の卵巣刺激の反応の違いを比較した報告をご紹介いたします。

ポイント

日本人女性は白人女性と比較して、回収卵子数が同程度であっても血清エストラジオール濃度が有意に高く、早期卵巣過剰刺激症候群の発生率も高いことが示されました。民族差を考慮した卵巣刺激法の検討が重要です。 

引用文献

Osamu Ishihara, et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI: 10.1016/j.rbmo.2021.09.014 

論文内容

日本および欧州、北米、南米で実施された2つの無作為化比較試験において、体重とAMHで個別化設定したフォリトロピンデルタ投与による卵巣刺激を実施した体外受精患者800名(日本人170名、白人630名)の卵巣反応をポストホック分析にて実施しました。 

結果

日本人女性は白人女性と比較して平均体重が10kg少なく、フォリトロピンデルタの総投与量に影響を与えました(83.5 ± 28.9 vs. 90.2 ± 25.2 µg)。刺激終了時の血清FSH濃度は日本人女性と白人女性で有意差はなかったが(中央値14.3 vs. 14.0 IU/l)、血清エストラジオール濃度は日本人女性で有意に高くなりました(中央値6517 vs. 5298 pmol/l, P < 0.0001)。日本人女性と白人女性の採卵数はほぼ同じで、全体(9.3 ± 5.4 vs. 9.5 ± 5.7)、low responderが疑われる女性(7.2 ± 3.7 vs. 7.6 ± 4.6)、high responderが疑われる女性(10.8 ± 5.9 vs. 11.0 ± 6.0)で有意差はありませんでした。血清エストラジオール濃度は日本人女性で有意に高く、早期卵巣過剰刺激症候群の発生率は白人女性に比べ日本人女性で有意に高くなりました。

結論

フォリトロピンデルタによる卵巣刺激は血清FSH値への影響、回収卵子数は日本人女性と白人女性で差がありませんでした。卵巣反応が同じ程度であれば、血清エストラジオールは日本人女性で有意に高く、エストラジオールが同程度の場合、日本人女性では早期OHSS率が高くなることがわかりました。 

私見

採卵決定時の血清エストラジオール濃度は回収卵子数が同程度である場合、日本人女性が白人女性より29%高いことがわかりました。過去にもアジア人を対象とした場合の同様の傾向が報告されていますので事実なのだと思います。FSH受容体変異体Ala307-Ser680やThr307-Asn680やCYP19(アロマターゼ)の多型が関連しているのかもしれません。白人女性に比べて日本人女性では同じ回収卵子数を得ようとすると高いエストラジオール値を示し、同じエストラジオール値でもOHSS発症リスクが高いことを加味すると、日本でなぜ全胚凍結メインの体外受精治療となってきたかわかるような気もします。国内における海外とは異なるガイドラインが必要なことを改めて感じました。論文にしてエビデンスを残すことの重要性を感じました。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# OHSS

# ゴナドトロピン

# 卵巣刺激

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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