はじめに
レトロゾールはアロマターゼ阻害薬であり、アンドロゲンからエストラジオールへの変換を抑制することで卵胞発育を促します。排卵障害や月経不順を有する患者における凍結融解胚移植(FET)の子宮内膜調整法として有効とされてきましたが、排卵周期を有する患者における有用性は十分に検討されていませんでした。また、自然排卵周期とレトロゾール排卵周期とで妊娠合併症や先天異常の発生率を比較した研究はこれまで存在しておりませんでした。今回、原因不明不妊患者を対象に、自然排卵周期と比較したレトロゾール排卵周期の単一凍結融解胚盤胞移植(SVBT)における妊娠・周産期成績を傾向スコアマッチング(PSM)にて検討した後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
排卵周期を有する原因不明不妊患者において、レトロゾール排卵周期での単一凍結融解胚盤胞移植は自然排卵周期と比較して出生率を有意に改善し、周産期合併症および先天異常の増加は認められませんでした。
引用文献
Kenji Ezoe, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022 Nov 7;22(1):824. doi: 10.1186/s12884-022-05174-0.
論文内容
レトロゾールによる子宮内膜調整が、排卵周期を有する患者における単一凍結融解胚盤胞移植(SVBT)後の妊娠転帰、周産期転帰、および先天異常に影響するかどうかを、自然排卵周期と比較しながら検討した後方視的コホート研究です。対象は原因不明不妊患者のみとし、無排卵性不妊、卵管性不妊、男性不妊、子宮内膜因子による不妊、および反復着床不全(4回以上の胚移植が不成功)の患者は除外されました。採卵はクロミフェン(CC)を用いた低刺激法にて行い、各患者の自己卵子を使用しました。
2015年7月から2020年6月に国体単一生殖医療施設にて自然排卵周期またはレトロゾール排卵周期でSVBTを受けた14,611例を対象としました。妊娠・母体・周産期転帰に影響する複数の共変量を用いて傾向スコアマッチングを実施し、レトロゾール群1,911例を自然排卵周期群12,700例とマッチングした結果、各群1,910例の診療記録を後方視的に解析しました。主要評価項目はSVBT後の出生率、副次評価項目は周産期合併症および先天異常の発生率としました。
周期特性として、トリガー日の血清エストラジオール値(335.7±3.5 pg/mL vs. 258.5±3.0 pg/mL; P<0.0001)、プロゲステロン値(0.5±0.0 ng/mL vs. 0.4±0.0 ng/mL; P=0.0003)、LH値(18.0±0.2 mIU/mL vs. 14.1±0.2 mIU/mL; P<0.0001)はいずれもレトロゾール群で有意に低値を示しました。移植日の血清エストラジオール値もレトロゾール群で有意に低値(169.5±1.7 pg/mL vs. 114.2±1.5 pg/mL; P<0.0001)でしたが、プロゲステロン値はレトロゾール群で有意に高値(16.6±0.1 ng/mL vs. 22.0±0.2 ng/mL; P<0.0001)でした。黄体機能不全(移植日プロゲステロン<11 ng/mL)の割合はレトロゾール群で有意に低く(13.5% vs. 4.4%; P<0.0001)、子宮内膜厚は両群間で同等でした(10.6±0.0 mm vs. 10.7±0.0 mm; P=0.0273)。
結果
着床率は両群間で差を認めませんでしたが(57.0% vs. 58.6%; P=0.2945)、臨床妊娠率(50.4% vs. 54.2%; P=0.0180)、継続妊娠率(44.5% vs. 48.2%; P=0.0212)、出生率(39.1% vs. 42.3%; P=0.0411)はいずれもレトロゾール群で有意に高値を示しました。早期妊娠喪失率はレトロゾール群で有意に低値でした(11.6% vs. 7.8%; P=0.0014)。流産率、双胎妊娠率、死産率には両群間で有意差を認めませんでした。多変量ロジスティック回帰分析においても、交絡因子調整後にレトロゾール投与が出生率を有意に改善することが確認されました(AOR 1.156; 95% CI 1.006–1.329; P=0.0397)。年齢別サブグループ解析では、37歳未満の若年群においてレトロゾール群で早期妊娠喪失率の有意な低下と臨床妊娠率・継続妊娠率の有意な改善が認められましたが、37歳以上の高齢群では両群間に有意差は認められませんでした。
出生例の周産期転帰(自然排卵周期群746例 vs. レトロゾール群808例)については、妊娠合併症全体(5.0% vs. 6.4%; P=0.2110)、妊娠高血圧症候群(1.1% vs. 0.4%; P=0.0996)、妊娠糖尿病(0.5% vs. 0.9%; P=0.4380)、前期破水(0.1% vs. 0.5%; P=0.2093)、低置胎盤(0.5% vs. 0.5%; P=0.9099)、前置胎盤(1.2% vs. 1.2%; P=0.9554)、常位胎盤早期剥離(0.1% vs. 0.3%; P=0.6107)、帝王切開率(29.5% vs. 26.7%; P=0.2267)はいずれも両群間で有意差を認めませんでした。新生児転帰についても、在胎週数(39.0±0.1週 vs. 39.0±0.1週; P=0.6539)、早産率(<37週; 5.4% vs. 5.6%; P=0.8575)、出生体長(49.1±0.1 cm vs. 49.0±0.1 cm; P=0.7309)、出生体重(3,031±16 g vs. 3,017±15 g; P=0.5208)、低出生体重児(<2,500 g; 8.9% vs. 8.9%; P=0.9648)、SGA(4.2% vs. 4.2%; P=0.9589)、LGA(16.9% vs. 14.4%; P=0.1688)、先天異常(4.2% vs. 4.5%; P=0.7755)に有意差は認められませんでした。多変量ロジスティック回帰分析においても、レトロゾール投与による母体・周産期転帰への有害影響は認められませんでした。先天異常を循環器系・筋骨格系など9つのカテゴリに細分類した解析においても、各カテゴリの発生率に両群間で有意差はなく、最多は両群ともに循環器系奇形でした。
私見
レトロゾール投与により黄体機能が改善し(移植日プロゲステロン値の有意な上昇・黄体機能不全率の低下)、早期流産率が減少することで出生率が改善したという機序の考察は、プロゲステロンの着床および初期妊娠維持における重要な役割を示した既報と合致しています。著者らはレトロゾールによるアンドロゲン蓄積がFSH受容体発現を促進し、黄体顆粒膜細胞のプロゲステロン合成を亢進する可能性を考察しており、このアンドロゲン介在性機序については今後の分子生物学的検討が待たれます。
排卵周期FETにおけるレトロゾールの有用性を示した先行研究としては以下が挙げられます。
- Tatsumi T, et al. Hum Reprod. 2017.
FBT後の臨床妊娠率・出生率がレトロゾール群で改善したと報告していますが、両群の患者背景および移植胚の形態評価が大きく異なる点が課題でした。 - Li D, et al. Front Endocrinol. 2021.
PSMを用いた凍結初期胚移植(分割胚)の検討であり、レトロゾール周期での妊娠転帰が自然排卵周期と同等であることを示しました。
周産期安全性については、ホルモン調整周期(HRT周期)FETと比較して自然排卵周期や排卵周期FETが周産期合併症リスクを低減することを示した複数の報告が本研究の考察を支持しています。
- Ginstrom Ernstad E, et al. Hum Reprod. 2019.
- Saito K, et al. Hum Reprod. 2019.
- Zaat TR, et al. Reprod Biomed Online. 2021.
黄体機能不全傾向を有する排卵周期患者、特に若年層においてレトロゾール排卵周期SVBTは合理的な選択肢となりうると考えられますね。
ただし、下記コラムのよう報告もないわけではないのでご留意いただければ幸いです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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