体外受精

2024.12.23

胚盤胞移植と分割期胚移植における累積出生率の比較:多施設共同ランダム化比較試験(BMJ 2024)

はじめに

体外受精において、胚移植のタイミングは重要な要素です。従来は卵子採取後3日目の分割期胚移植が一般的でしたが、体外培養条件と胚凍結技術の向上により、5-6日目の胚盤胞期での移植が標準的になってきました。しかし、累積出生率の観点からどちらが優れているかは不明確でした。こちらを調査した多施設共同ランダム化比較試験をご紹介いたします。

ポイント

予後良好が期待される体外受精患者(33歳平均、体外受精2日目の段階で4つ以上移植できそうな胚がある患者)において、胚盤胞移植と分割期胚移植は同等の累積出生率を示しました。

引用文献

Cornelisse S, et al. BMJ 2024;386:e080133. doi:10.1136/bmj-2024-080133

論文内容

分割期胚移植と胚盤胞胚移植が累積生児出生率、周産期合併症がどのように変化するか調査したオランダ21施設で実施された多施設共同ランダム化比較試験です。2018年8月から2021年12月にかけて、卵子採取後2日目に4個以上の胚が得られた1202名の患者を対象としました。患者は1:1の割合で胚盤胞移植群(n=603)または分割期胚移植群(n=599)に無作為に割り付けられました。
胚盤胞移植群は採卵後5日目、分割期移植群は採卵後3日目に胚移植を行い、その後余剰胚を凍結保存した。解析はintention-to-treatベースで行いました。
主要評価項目は、無作為化後1年以内のすべての凍結融解胚移植の結果を含む、採卵あたりの累積生児出生率とした。副次評価項目は、新鮮胚移植後の累積妊娠率、流産率、生児出生率、必要胚移植数、凍結胚数、周産期合併症としました。
胚盤胞移植群では、採卵後5日目(6日目ではない)に新鮮胚を移植し、その後5日目または6日目に余剰胚をガラス化法で凍結保存しました。分割期胚移植群では、新鮮胚を採卵後3日目に移植し、その後、3日目または4日目に余剰胚を凍結保存しました。6施設では倫理的理由から、3日目または4日目に凍結基準を満たさない胚がある場合は、6日目まで培養し凍結しました。

結果

累積出生率は胚盤胞移植群で58.9%(355/603)、分割期胚移植群で58.4%(350/599)と差はありませんでした(リスク比1.01、95%CI 0.84-1.22)。胚盤胞群では新鮮胚移植での出生率が高く(37.0% vs 29.5%)、流産率が低く(16.3% vs 24.2%)、生産に必要な胚移植回数も少なくなりました(1.55回 vs 1.82回)。一方で、単胎での早産リスク(32-37週)は胚盤胞群で高くなりました(8.9% vs 4.7%)。

私見

体外受精における胚移植日数に関連した累積生児出生率について報告した5つの無作為化対照試験(632名)を対象とした2022年のコクランレビューでは、胚盤胞期を支持するエビデンスは分割期期と比較して不確実であると結論付けられています。

Glujovsky D, et al. Cochrane Database Syst Rev 2022. doi:10.1002/14651858.CD002118.pub6

ただし、胚盤胞のほうが生存可能、胚盤胞発育可能という観点では胚選別が進むため、累積出生率ではなく、移植あたりであれば高い着床率、低い流産率が期待されます。そのほかのLGA児発症リスク、一卵性双胎リスク、早産リスクなども課題として残されており、今後も質の高い研究が集積していくことを期待していきたいと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

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