はじめに
いくつかの研究において、体外受精の卵巣刺激で採取する卵子数の最適な個数が議論されています(Timovaら、2006; van der Gaastら、2006; Sunkaraら、2011; Bakerら、2015; Briggsら、2015)。これらの研究はいずれも同様の結果を示し、最適な回収卵子数は8〜18個であることが報告されています。ただし、これらの研究には以下のようなバイアスが存在します。①初回採卵に限定していない、②単一胚移植を前提としていない、③新鮮胚移植と凍結融解胚移植の基準が曖昧、④刺激方法が統一されていない、などです。
今回ご紹介する報告は、当院でも卵巣刺激の多くを占めるGnRHアンタゴニスト周期における初回体外受精女性(単一胚移植)の新鮮胚移植後の累積出産率を示した報告です。
ポイント
単一胚移植を予定している初回体外受精女性において、採卵された卵子数に応じて累積出生率は増加します。10〜15個の回収卵子数を目指す刺激が望ましそうです。
引用文献
Panagiotis Drakopoulos, et al. Hum Reprod. 2016. DOI: 10.1093/humrep/dev316
論文内容
単一胚移植を予定している初回体外受精女性において、全ての新鮮胚および凍結胚を利用した後の累積出生率に対する卵巣反応の影響を検討しました。ブリュッセル大学病院の生殖医療センターにおいて、2009年1月から2013年12月までに後方視的に行ったコホート研究です。初回体外受精を行う18〜40歳の女性1099名を対象とし、初回は新鮮単一胚移植の実施を計画しました。全例にfixed GnRHアンタゴニストプロトコルを用い、150〜225IU r-FSH、トリガーにhCG 10000単位で卵巣刺激を行いました。患者を回収卵子数に応じて以下の4つのグループに分類しました。
- 低反応:1〜3個
- 準最適:4〜9個
- 最適:10〜15個
- 高反応:>15個
新鮮胚移植はクリニックの基準に従い実施されました。
結果
新鮮胚移植における累積出生率について、高反応(>15個)と最適(10〜15個)を比較(P=0.65)、最適(10〜15個)と準最適(4〜9個)を比較(P=0.2)しても、調整前の結果では有意差を認めませんでした。
低反応(回収卵子数1〜3個)と比較して、高反応、最適、準最適の各グループで有意に高い累積出生率を示しました(P<0.05)。中等度卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は1099例中11名(1%)に発生しました。
凍結胚を含めた累積出生率は、回収卵子数に応じて有意に増加しました(P<0.001)。高反応(>15個)は、低反応(0〜3個)(P<0.001)や準最適(4〜9個)(P<0.001)に対してだけでなく、最適(10〜15個)の女性に対しても有意に高い出生率を示しました(P=0.014)。
準最適グループは低反応グループに比べて累積出生率が良好でしたが(P=0.002)、準最適グループは最適グループに比べて累積出生率が有意に低くなりました(P=0.02)。多変量ロジスティック回帰分析では、回収卵子数が累積出生率の独立した予測因子(P<0.001)であることが示されました。
| 低反応:1~3個(n=83) | 準最適:4~9個(n=471) | 最適:10~15個(n=327) | 高反応:>15個(n=218) | |
| 女性年齢 | 32.8歳 | 31.6歳 | 30.5歳 | 30.3歳 |
| 受精率 | 60.64% | 63.4% | 60.5% | 56.9% |
| 回収卵子数 | 2.3個 | 6.6個 | 12.1個 | 22個 |
| 新鮮胚移植未実施率 | 22.9% | 9.6% | 3.4% | 11% |
| 中等度OHSS発症率 | 0% | 0% | 0.6% | 4.1% |
| 全症例あたりの新鮮胚移植後出生率 | 16.9% | 29.7% | 33.4% | 32.1% |
| 累積出生率 | 21.7% | 39.7% | 50.5% | 61/5% |
私見
従来の海外の体外受精における累積出生率の報告は、国内で行われているものとやや条件が異なる報告が数多くを占めていました。刺激単位数が300単位以上であったり、新鮮胚移植で若年者にも複数胚を移植したり、回収卵子数が異常に多かったりと様々でした。
今回の報告は、私たちが通常診療で行っている刺激に非常に近く、結果に関しても同様の印象を受けます。卵巣予備能が維持されている場合、10〜15個の回収卵子数を目指す刺激が望ましいと考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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