はじめに
胚移植で妊娠成立した際、プロゲステロン腟剤の黄体補充では妊娠初期の性器出血がコントロールできないことが稀にあります。そのような際にはプロゲステロン注射を投与するとコントロールがつくことが分かっています。日本では2022年3月をもってプロゲステロン注射が中止になりました。注射の有用性を示す報告をご紹介させていただきます。
ポイント
凍結融解胚移植におけるプロゲステロン腟剤単独の黄体補充は、筋肉注射単独または腟剤・筋肉注射併用と比較して出生率が有意に低く、流産率が高くなります。筋肉注射の連日投与と腟剤・筋肉注射併用は同等の成績を示しました。
引用文献
Kate Devine, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.013
論文内容
着床前診断を実施していない良好凍結胚盤胞を移植する研究に同意された1,346名のうち1,125名に最終的に登録してもらい、黄体補充に①プロゲステロン50mg筋肉注射を連日行う群、②プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与し3日毎にプロゲステロン50mgの筋肉注射を行う群(併用療法)、③プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与する群の3群に無作為に割り付けた多施設共同試験です。
主要評価項目は出生率、副次的評価項目は着床率、生化学妊娠率、臨床妊娠率、流産率、胚移植から2週間後の血清プロゲステロン濃度、プロゲステロン投与経路に関する患者の印象としました。
結果
計1,060件の凍結融解胚移植を実施し出生率は、③プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与する群(27%)は、①プロゲステロン50mg筋肉注射を連日行う群(44%)や②プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与し3日毎にプロゲステロン50mgの筋肉注射を行う群(46%)よりも有意に低くなりました。③プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与する群は50%が流産となりました。
③プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与する群の出生率は有意に低下しましたが、主に流産率の上昇によるものでした。②プロゲステロン腟剤200mgを1日2回投与し3日毎にプロゲステロン50mgの筋肉注射を行う方法は、①プロゲステロン50mg筋肉注射を連日行う方法と比較して劣らず、良い生殖医療結果となりました。
私見
過去にもレトロスペクティブな研究では、プロゲステロン腟剤のみを黄体補充に用いた場合の結果がよくないことを示している報告があります(Haddad G, et al. 2007. Kaser DJ, et al. 2012. Feinberg EC, et al. 2013)。差がないという論文もあります。
この症例は33歳に採卵し34歳に胚盤胞グレードBB以上の胚を1〜2個移植した結果です。ドナー割合は4%前後でした。
また今回の結果に影響しているものとして、胚移植から2週間後の血清プロゲステロン濃度を提示しています。プロゲステロン腟剤群で平均7.4ng/ml、プロゲステロン腟剤・注射併用群で平均11.2ng/ml、プロゲステロン筋注連日群で平均17.8ng/mlであり、9ng/ml以上の妊娠率が高くなっていました。
腟剤、内服薬でコントロールできない性器出血に対して当院では自己注射可能な水溶性プロゲステロン注射を自費診療にはなりますが、提供できる環境を用意しています。
| プロゲステロン筋注連日群 | プロゲステロン腟剤・注射併用群 | プロゲステロン腟剤群 | 有意差 | |
| 症例数 | 399 | 388 | 210 | |
| 妊娠反応陽性率 | 69% | 65% | 59% | P=0.05 |
| 生化学妊娠率 | 17% | 13% | 33% | P<0.001 |
| 臨床妊娠率 | 57% | 56% | 39% | P<0.001 |
| 流産率 | 19% | 15% | 28% | P=0.04 |
| 妊娠喪失率 | 33% | 26% | 52% | P<0.001 |
| 出産率 | 46% | 48% | 29% | P<0.001 |
妊娠喪失率のみが妊娠反応陽性あたり、流産率が臨床妊娠あたり、そのほかが胚移植あたりとなっています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。