体外受精

2021.07.21

卵巣刺激を変えると胚質は変わる?(Fertil Steril. 2021)

はじめに

ゴナドトロピン投与が原因と思われる、胚の染色体異数性やモザイク性の異常な高さについても懸念されています。差があるという論調(Baart EB, et al. Hum Reprod 2007. Katz-Jaffe MG, et al. Fertil Steril 2005. Munne S, et al. Hum Reprod 1997.)と、差がないという論調(Irani M, et al. Hum Reprod 2020.)があります。臨床の現場では、初回採卵で期待した良い結果に至らなかった場合、卵巣刺激の変更を患者様に提案することが多いです。どのように変更するかは経験則的な部分が多く論文などでの根拠に乏しいのが実情です。低刺激は含まれておりませんが標準的な卵巣刺激間で刺激を変更したら胚質が改善したかどうかを示した論文をご紹介します。 
 
Iraniの論文
調節卵巣刺激は着床前検査結果や正倍数性胚移植後の出生率に影響しますか?(影響を与えない意見)(Hum Reprod. 2020) 

ポイント

同じ卵巣刺激プロトコルを繰り返すことで、僅かではありますが卵巣刺激結果の改善が認められました。プロトコルを変更しても胚盤胞到達率および異数体率に変化はありませんでした。 

引用文献

Kaitlyn Wald, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.030. 

論文内容

2010年から2019年の間に単一不妊治療施設で体外受精を行った患者を対象としたレトロスペクティブな検討です。体外受精を始めて1年以内に複数回の採卵を実施した4,458名の患者(平均年齢:37.5歳、BMI:21.9 kg/m²、total hMG量:2,436単位、回収卵子数:13.2個)を対象としたところ、2回目の刺激では49%が同じプロトコルを繰り返し、51%が異なるプロトコルを受けていました。
刺激方法は、①エストロゲンプライミングのGnRHアンタゴニスト法、②ロング法、③ロング法変法(GnRHアゴニスト注射を前周期投与し刺激周期には行わない)④ピルプライミング有無にかかわらないGnRHアンタゴニスト法、⑤クロミフェンもしくはレトロゾールでフレアを起こした後FSH製剤を連日投与する刺激法とし、ロジスティック回帰または線形回帰を用い検討しました。評価項目は回収卵子数、受精率、胚盤胞到達率、有効胚数、異数体率です。 

結果

初回卵巣刺激の結果は、受精率、胚盤胞到達率、有効胚数、異数体率はすべてのプロトコルで同じでしたが、回収卵子数は④ピルプライミング有無にかかわらないGnRHアンタゴニスト法で多く、⑤クロミフェンもしくはレトロゾールでフレアを起こした後FSH製剤を連日投与する刺激法で少ない結果となりました。
回収卵子数は、⑤クロミフェンもしくはレトロゾールでフレアを起こした後FSH製剤を連日投与する刺激法を除き、同じ刺激を繰り返すと改善が認められました。また、同じ刺激を繰り返すことで、受精率(coefficient 0.02、95%CI、0.004-0.4)および有効胚数(coefficient 1.25、95%CI、0.79-1.72)に僅かながらも改善が認められました。
プロトコルを変更しても、胚盤胞到達率(coefficient 0.03、95%CI、-0.01-0.08)および異数体率(coefficient 0.01、95%CI、-0.04、0.06)に変化はありませんでした。
低い胚盤胞到達率のサブグループでは、同じプロトコルを繰り返すことで、より大きな改善が認められました(coefficient 0.03、95%CI 0.01-0.04)。 

私見

「卵巣刺激は2回目にあえて違う刺激に変えなくて良い」という論調の論文です。
私もほぼ同じ意見です。報告者らも触れていますが、改善する理由は①初回の結果を踏まえて採卵決定のタイミングや薬の投与量などを微妙な匙加減が調整できること、②最初のサイクルで投与された投薬に対する「プライミング効果」があり刺激に身体が順応していること、③新しい薬の導入などがなく治療の流れも把握しやすく患者様のストレスの軽減やプロトコルのミスが軽減されること、は大きなメリットなのでは?と考えています。
ただし、この論文では標準的な卵巣刺激で全くダメだったような症例で繰り返してやることを推奨したものではないこと、マイルド刺激に切り替えた場合への結果の変化については示されていないことも忘れてはいません。
初回、そこそこ予想通りに卵巣刺激が奏功したけれど妊娠に至っていない場合は刺激を変える必要がないよ、くらいの理解にとどめるのが良いかと思います。
それにしても、やはりPPOSを除く標準的卵巣刺激法としてはGnRHアンタゴニスト法の安定感は素晴らしいと思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

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# 染色体

# 胚盤胞

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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