体外受精

2026.04.29

腟内細菌叢(Ureaplasma parvum/Lactobacillus iners)とIVF治療成績の関連性(Hum Reprod Open. 2026)

はじめに

腟内細菌叢はラクトバチルス優勢の有無や構成種の違いにより複数のcommunity state type(CST)に分類され、ラクトバチルス優勢からの逸脱が不妊と関連すると報告されてきました。特にKoedooderらはL. inersが着床を支持するとした一方、後続研究では同結果が再現されず、逆にL. iners優勢CSTで妊娠率低下が示されるなど結果が一貫していません。今回、凍結融解胚移植を受けた256例を対象にCSTおよび個別細菌種を用いたART予後予測能を検証した前向きコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

CSTやα多様性はIVF予後を予測せず、U. parvumとL. inersの共存は着床・継続妊娠・出生の強い陰性予測因子でした。

引用文献

Simon Graspeuntner, et al. Hum Reprod Open. 2026 Mar 5;2026(2):hoag018. doi: 10.1093/hropen/hoag018.

論文内容

本研究は、既存の腟内細菌叢CSTをIVF予後予測因子として検証するとともに、より有用な微生物学的予測因子の同定を目的としたドイツからの単施設前向きコホート研究です。2017年5月から2019年3月に凍結融解胚移植(FET)周期を受けた18~45歳の不妊女性266例を組み入れ、そのうち細菌叢解析データが利用可能であった256例を解析対象としました。FETは全例ホルモン調整周期(経口エストラジオールバレレート2 mg tid、内膜形成確認後にジドロゲステロン10 mg tid)で行われ、着床前遺伝学的検査は実施されていません。胚移植の2週間前に後腟円蓋から採取した腟スワブよりDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子V3/V4領域をMiSeqで次世代シーケンスした後、mothurおよびEzBioCloudを用いて菌種レベルでの分類を行いました。評価項目は①着床(血清hCG陽性)、②臨床妊娠(妊娠7以降の心拍確認)、③出生(生存児の分娩)と定義し、CST割付は階層型クラスタリング、指標菌の同定はLEfSe解析、予測モデルはバイナリロジスティック回帰により構築しました。

結果

256例中116例(45.3%)が着床陽性であり、年齢・BMI・不妊期間・主要病因・既往手術・移植胚数・内膜厚・血漿ジドロゲステロン値などの臨床変数は両群で有意差を認めませんでした(血清エストラジオール at hCGのみP<0.001で陽性群が高値)。階層クラスタリングにより7つのCSTが同定され、分布はCST-A(L. crispatus優位)37.1%、CST-C(L. iners優位)28.1%、CST-D(多様型)16.8%、CST-B(L. gasseri優位)10.2%、CST-F(Gardnerella piotii優位)3.9%、CST-E(L. jensenii優位)2.3%、CST-G(L. fornicalis優位)1.6%でした。CST別の着床率に統計学的有意差は認められず、Shannon多様性・観察種数・evenness・主要菌種相対存在比・L. iners/L. crispatus比のいずれも陽性/陰性群を判別できませんでした。一方、LDAスコア3以上のLEfSe解析ではL. fornicalisが着床に正の関連、L. inersとU. parvumが陰性妊娠反応に負の関連を示しました。U. parvumの相対存在比が0.5%を超えるだけで着床率は50.2%から22.7%へ著明に低下し、L. fornicalisが50%を超える群では約75%が着床陽性となりました。出生率でも同様の傾向が認められ(L. fornicalis vs 対照で24.8% vs 9.1%)、バイナリロジスティック回帰ではU. parvum × L. inersの交互作用(P=0.0160)、U. parvum × ジドロゲステロン(P=0.0400)、U. parvum × L. fornicalis(P=0.0320)がアウトカムと有意に関連しました。予測閾値0.25未満のlow-likelihood群(24例)では着床が2例のみ(5%、他群は約50%)で、臨床妊娠・出生はゼロであり、このうち21例がU. parvum保菌(全データのU. parvumリードの94.08%を占める)、L. iners優位のCST-Cに集中し、Chlamydia trachomatis感染例も1例含まれていました。一方、全体でのモデル予測精度は60.2%と中等度にとどまりました。

  • α多様性
    1サンプル内の菌の多様さ(種類の多さと均等度を合わせた概念)を示す指標です。 
  • Shannon多様性
    菌種数と均等度を統合したα多様性の代表的指標で、値が大きいほど多様、小さいほど特定菌に偏っていることを示します。 
  • 観察種数
    そのサンプルから検出された菌種の総数を示します。 
  • Evenness(均等度)
    検出された菌種がどれだけ均等な比率で分布しているかを示す指標で、1菌種に偏るほど低値となります。 
  • 主要菌種相対存在比
    サンプル内の総リード数に対する各菌種の割合(%)を示します。 
  • LEfSe解析
    群間で特徴的な菌種を抽出し、その効果量(LDAスコア)を定量する統計手法です。 

私見

①広く商業化されているCST分類やα多様性指標はART予後予測に有用でないこと、②個別菌種、特にU. parvumとL. inersの共存が強い陰性予測因子として抽出されたこと、が新規性があり勉強になりました。 
方法論的にも、16S rRNA遺伝子解析ではU. parvumが低存在量のため偽陰性リスクがあり、本研究の強い関連性を踏まえると、ART前スクリーニングではNGSに加えて認証済みの特異的診断(qPCRなど)を併用する価値がありそうです。ただ、EMMA/ALICEパネルにU. parvumが含まれていないので、そこは少し臨床医として残念です。 
L. fornicalisが着床に有利と書かれている部分は①V3/V4領域による16S解析はL. acidophilus複合体内の近縁種判別に不向きであること、②基準株自体が失われており、参照配列Y18654が真に「L. fornicalis」と呼ぶべき独立種に対応するかは未解決であること、から今回のデータでは議論が難しいと判断しています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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