
はじめに
高齢女性では加齢に伴う黄体機能不全を理由にホルモン調整周期が凍結融解胚移植時に選択されてきましたが、その妥当性を支持するエビデンスは限定的でした。今回は、卵子提供レシピエントを対象に排卵周期とホルモン調整周期の予後を比較し、レシピエント年齢の影響を検討した大規模多施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
卵子提供胚移植において、排卵周期はレシピエント年齢に関わらずホルモン調整周期より出生率が高く、流産・周産期合併症リスクも低い結果でした。
引用文献
Filipa Rafael, et al. Hum Reprod. 2026. doi: 10.1093/humrep/deag058.
論文内容
卵子提供レシピエントにおいて、排卵周期(NC)とホルモン調整周期(HRT)による子宮内膜調整法を比較し、レシピエント年齢が予後に影響するかを検討した多施設後方視的コホート研究です。2010年1月から2023年12月にイベリア半島のIVI-RMA系列クリニックで実施された卵子提供周期のうち、ガラス化保存胚を用いた単一胚盤胞移植を対象としました。レシピエント年齢は18〜49歳とし、未治療の子宮形態異常・卵管病変(中隔子宮、双角子宮、粘膜下筋腫、内膜ポリープ、子宮腺筋症、Asherman症候群、子宮卵管留水腫など)、PGT施行例、主要変数欠測例は除外しました。
主要評価項目は出生率(LBR)、副次評価項目はhCG陽性率、臨床的妊娠率、流産率、周産期予後としました。多変量GEEモデル回帰分析により、レシピエント・ドナー年齢、BMI、喫煙歴、不妊種別、男性因子、提供MII卵子数、卵子・精子・胚の状態(新鮮/ガラス化)、胚質(A・B・C)、移植日子宮内膜厚、移植年などで交絡調整を行いました。サブ解析として、移植日血清P4が8.8 ng/mL未満時にレスキュー療法を実施した最適化HRTコホートとの比較、およびレシピエント年齢と内膜調整法の交互作用解析を実施しました。
結果
合計67,048周期(NC群6,922周期、HRT群60,126周期)が解析対象となりました。
女性年齢はAC群:42.26 ± 4.02歳 NC群:41.80 ± 3.56歳でした。
多変量調整後、NC群はHRT群と比較してhCG陽性率(aOR 1.20、95%CI 1.21–1.29;P<0.01)、臨床的妊娠率(aOR 1.24、95%CI 1.16–1.32;P<0.01)、出生率(aOR 1.38、95%CI 1.29–1.47;P<0.01)でいずれも有意に高く、流産率はhCG陽性妊娠あたりで有意に低い結果でした(aOR 0.68、95%CI 0.61–0.76;P<0.01)。
初回移植(n=36,727)ではNCの実測LBR 47.59% vs HRT 44.92%(aOR 1.58、95%CI 1.38–1.80;P<0.01)、再移植(n=30,321)でもNC 35.81% vs HRT 31.55%(aOR 1.30、95%CI 1.20–1.41;P<0.01)と、NCの優位性は移植回数をとわず維持されました。
血清P4モニタリングとレスキュー療法を実施した最適化HRT群(38,871周期)との比較でも、NC群はLBR(aOR 1.42、95%CI 1.31–1.54;P<0.01)および流産率(aOR 0.65、95%CI 0.57–0.74;P<0.01)で優れていました。単胎出生児26,318例の周産期予後解析では、NC群でHRT群と比較し妊娠高血圧症候群(11.45% vs 7.67%;aOR 0.72、95%CI 0.56–0.94;P=0.01)、帝王切開(57.37% vs 49.63%;aOR 0.86、95%CI 0.77–0.96;P<0.01)、LGA児(20.33% vs 17.78%;aOR 0.77、95%CI 0.67–0.89;P<0.01)がいずれも有意に少なく、早産(<37週)、SGA、平均出生体重、平均在胎期間、妊娠糖尿病には有意差を認めませんでした。レシピエント年齢と内膜調整法の交互作用は統計学的に有意ではなく(aOR 1.02、95%CI 0.99–1.03、P=0.08)、NCの優位性は若年から高齢レシピエントまで一貫して認められました。
私見
機序面では、排卵時に存在する黄体がプロゲステロン以外にもrelaxinやVEGFを分泌し、脱落膜化や母体心血管適応に寄与すること(von Versen-Hoynck F, et al. Hypertension. 2019)が、HRT-FETでHDPやLGAが増加する背景として説明されています。
スケジューリング面の課題に対しては、Mendes Godinhoらのnatural proliferative phase(NPP)法(Hum Reprod. 2024)や、Alonso-MayoらのrHCG投与タイミングを卵胞径13–22mmまで柔軟化した修正NC法(Reprod Biomed Online. 2024)が報告されており、NCの臨床応用性は向上しつつあります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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