
はじめに
未受精卵から胚盤胞まで全ての発生段階で凍結にはガラス化法が用いられていますが、卵子と胚盤胞では表面/容積比、細胞内粘度、水分含有量、水および凍結保護物質(CPA)に対する膜透過性が異なるにもかかわらず、同様のプロトコールが用いられています。Kuwayamaらが2005年に報告した段階的手法が広く使用されている一方、より短時間で済む手法も報告されてきました。2021年以降、胚盤胞のワンステップ融解(SSW)が注目され、複数の施設で異なるスクロース濃度を用いた検証が行われ、同等の妊娠率および出生率が報告されています。今回、ヒト胚盤胞に対するワンステップガラス化(SSV)とワンステップ融解法(SSW)の組み合わせの実現可能性を検証した研究をご紹介いたします。
ポイント
ヒト胚盤胞のワンステップガラス化・ワンステップ融解法は、多段階ガラス化(SWV)と比較して融解後の収縮率および再膨張率は低下するものの、継続妊娠率は同等であり、今後操作時間とCPA曝露を削減できる実用的な代替法となりそうです。
引用文献
Jan Gunst, et al. J Assist Reprod Genet. 2026 Feb;43(4):837-850. doi: 10.1007/s10815-025-03790-1.
論文内容
ヒト胚盤胞におけるワンステップガラス化・ワンステップ融解法(SSV/SSW)の実現可能性を評価することを目的とした単一施設での検証および臨床研究です。研究対象および方法として、まず研究用胚盤胞を用いてSSV/SSWの生存率、再膨張率、24時間後の発育を評価する検証を実施しました。3種類の異なるスクロース濃度(1.0M、0.5M、0.25M)による融解溶液を比較し、SSVまたはSWV後のCPA濃度をガスクロマトグラフィー・タンデム質量分析法(GC-MS/MS)で測定しました。検証後、本法を臨床導入し、SWV/SSW群333例とSSV/SSW群568例の単一ガラス化胚盤胞移植(SVBT)症例を比較しました。多段階ガラス化(SWV)は2023年12月まで標準法として使用され、2024年1月から2025年6月まではSSVが標準法として導入されました。融解は全症例で1Mスクロース溶液に1分間曝露しました。主要評価項目は妊娠20週時の胎嚢内胎児心拍を伴う継続妊娠としました。
結果
本研究は2段階で構成されています。第1段階は研究用胚盤胞を用いた検証実験、第2段階は実際の患者を対象とした臨床比較研究です。重要な点として、両段階とも融解はすべてワンステップ融解(SSW、1Mスクロース1分間曝露)で統一されており、純粋にガラス化法(SSV vs. SWV)の違いを評価する設計となっています。
検証段階(研究用胚盤胞)
研究用に提供された凍結胚盤胞をまずSSWで融解した後、SSVまたはSWVで再硝子化し、再度SSWで融解して胚の動態を評価しました。37℃でのSSVと1MスクロースSSWの組み合わせは、SWVと比較して硝子化過程での収縮率(89.6% vs. 98.1%)および融解後の再膨張率(97.9% vs. 88.7%)ともに同等の良好な成績を示しました。さらに加温液中のCPA濃度をガスクロマトグラフィー・タンデム質量分析法で測定したところ、SSV後の細胞内CPA取り込みはSWVより有意に低いことが示されました(合計CPA: 79.3 mg/L vs. 127.3 mg/L; p<0.001)。これはSSVでは細胞内に取り込まれるCPA量が少なく、潜在的なCPA毒性リスクが低い可能性を示唆しています。
臨床段階(実際の患者データ)
2024年1月から2025年6月にかけて、SWV/SSW群333例とSSV/SSW群568例の単一硝子化胚盤胞移植(SVBT)を比較しました。両群とも融解はSSW(1Mスクロース1分間)で統一されています。
ラボアウトカムとして、SSV群ではSWV群と比較して融解直後の収縮率(67.8% vs. 92.5%, p<0.001)および移植時の再膨張率(72.0% vs. 89.5%, p<0.001)が有意に低下しました。生存率も有意に低下しましたが、95%のベンチマークは達成しました(95.9% vs. 98.8%, p=0.014)。
臨床アウトカムでは両群間に有意差は認められませんでした。SSV群ではSWV群と比較して継続妊娠率(25.9% vs. 26.1%)、生化学的妊娠率(40.8% vs. 46.5%, p=0.095)、着床率(32.4% vs. 34.8%, p=0.453)、臨床妊娠率(26.8% vs. 28.5%, p=0.566)、臨床流産率(3.3% vs. 8.4%, p=0.088)はいずれも同等でした。
多変量ロジスティック回帰分析では、継続妊娠の有意な予測因子として、自然周期での子宮内膜調整(adjusted OR 2.623; 95% CI, 1.652–4.209; p<0.001)、36歳未満の年齢(adjusted OR 2.335; 95% CI, 1.301–4.237; p<0.005)、胚盤胞グレード(adjusted OR 1.901; 95% CI, 1.170–3.104; p<0.010)、Day5での硝子化(adjusted OR 1.712; 95% CI, 1.029–2.855; p=0.039)が同定されました。なお、収縮状態および再膨張状態自体は継続妊娠率に有意な影響を与えませんでした。
私見
本研究はヒト胚盤胞におけるSSV/SSWの実現可能性を初めて報告したものです。
本研究の重要な所見として、SSV群では収縮率および再膨張率がSWV群より有意に低下していました。再膨張に関しては、Conversa L, et al. Fertil Steril. 2025、Zou Q, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2025、Yoneyama M, et al. Reprod Biomed Online. 2025などが胚盤胞品質の重要な動的指標であることを報告しており、本研究でも再膨張陽性例で継続妊娠率が良好でした。著者らは不完全な収縮がSSV群での生存率低下に関連している可能性を考察しており、artificial shrinkageなど、収縮を促進する追加処置の検討が必要としています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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