
はじめに
長らく無菌と考えられてきた子宮腔内にも細菌叢が存在することが近年の研究で示され、ラクトバチルス優勢(90%以上)の子宮内膜液細菌叢が体外受精胚移植(IVF/ICSI-ET)の着床に好ましいことが報告されています。反復着床不全(RIF)はIVF/ICSI-ETを受ける不妊カップルの15-20%にみられる病態で、その原因は胚因子、子宮内膜受容能の障害、全身因子など多岐にわたります。今回、次世代シークエンサーを用いてRIF女性の子宮内膜液(EF)と腟分泌液(VS)のペア検体における細菌叢を初めて比較解析した報告をご紹介いたします。
ポイント
RIF女性のEF細菌叢はα多様性が低く、Burkholderia属はコントロール群で検出されずRIF群の25%で検出されました。
引用文献
Kitaya K, et al. Mediat Inflamm. 2019;2019:4893437. doi: 10.1155/2019/4893437.
論文内容
次世代シークエンサーを用いて、RIF女性のEFとVSのペア検体における細菌叢を特徴づけることを目的とした症例対照研究です。RIFの既往をもつ不妊女性28名(RIF群)と初回IVF/ICSI-ETを受ける不妊女性18名(コントロール群)を対象としました。RIFは形態良好な分割期受精胚および/または胚盤胞を5個以上移植したにもかかわらず継続的に妊娠陰性であった症例と定義しました。自然周期、採卵周期、ホルモン調整周期のいずれかにおいて、自然のLHサージ後、hCGトリガー後、もしくは黄体補充開始後の6-8日目にEFとVS検体をコンタミネーションを避けて別々に採取しました。子宮内膜生検検体はCD138免疫染色を行い、20視野以上で計測したCD138陽性細胞密度指数0.25以上をCEと診断しました。抽出したゲノムDNAを用いて、16SリボソームRNAのV4高頻度可変領域を増幅し、Illumina MiSeqプラットフォームで次世代シークエンシングを行いました。試薬由来のコンタミネーションとして知られる15属の細菌は解析から除外しました。
結果
両群の患者背景(年齢、BMI、不妊原因など)に有意差はありませんでした。CEはRIF群の21.4%(6/28)、コントロール群の11.1%(2/18)で検出され、RIF群で高い傾向にありましたが有意差は認められませんでした(p=0.38、RR 1.93、95%CI 0.43-8.53)。
EF細菌叢はVS細菌叢に比べα多様性が高く、Shannon指数(EF 1.104±0.777 vs VS 0.768±0.540、p=0.020)、観察種数(EF 11.950±5.262 vs VS 7.091±2.865、p<0.0001)、Chao1 richness(EF 15.330±6.214 vs VS 8.550±3.494、p<0.001)のいずれも有意差を認めました。EFとVSのUniFrac距離行列の解析でも有意に異なるクラスタリングが示されました(p=0.001)。
RIF群とコントロール群の比較では、EF細菌叢のShannon指数はRIF群(0.893±0.567)がコントロール群(1.431±0.931)より有意に低値でした(p=0.02)。VS細菌叢では有意差は認めませんでした(RIF群 0.654±0.431 vs コントロール群 0.946±0.637、p=0.07)。EF細菌叢のunweighted UniFrac距離は両群間で有意差を示しました(p=0.0089)が、VS細菌叢では類似していました(p=0.38)。
ラクトバチルス優勢のEF細菌叢の割合はRIF群64.3%(18/28)、コントロール群38.9%(7/18)で、RIF群でむしろ高い傾向を示しましたが有意差はありませんでした(p=0.13、OR 2.83、95%CI 0.83-9.61)。VSでも同様の結果でした(RIF群 67.9% vs コントロール群 44.4%、p=0.14、OR 2.64、95%CI 0.78-8.96)。Gardnerella属のEF検出率はRIF群39.3%(11/28)、コントロール群27.7%(5/18)で有意差はありませんでした(p=0.53、OR 1.68、95%CI 0.47-6.05)。Burkholderia属はコントロール群のEFでは1例も検出されなかった(0/18)のに対し、RIF群では25%(7/28)で検出され、有意差を認めました(p=0.032、OR 12.91)。VS細菌叢では両群間で特定の細菌種の検出率に有意差は認められませんでした。
私見
同一個体内ではEFとVSの細菌種は類似しているものの、EFはα多様性が高く、両者は異なる細菌コミュニティを形成していることが示されました。これは、EF細菌叢が単純なVSからの混入ではなく独自の生態系を有することを示唆します。
注目すべきはBurkholderia属がRIF群の25%で検出され、コントロール群では1例も検出されなかった点です。Burkholderia属はレボノルゲストレル子宮内システム使用者の子宮腔から検出された報告(Jacobson JC, et al. Contraception. 2014)や、卵管卵巣膿瘍の起炎菌となった症例報告(Nernsai P, et al. BMC Infect Dis. 2018)があり、多剤耐性を示すことが知られています。ただしBurkholderia属はNGS解析における試薬・実験室由来のコンタミネーションとして極めて頻繁に報告される菌属でもあり(Salter SJ, et al. BMC Biol. 2014、Laurence M, et al. PLoS One. 2014)、著者らも一部のコンタミネーション菌を除外していますがBurkholderiaは除外リストに含まれていません。本所見が真の生物学的シグナルかコンタミネーションの偏りかは慎重に判断すべきであり、追試研究が必要です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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