はじめに
調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation:COS)におけるゴナドトロピン投与量は症例ごとに設定されますが、ESHREガイドラインではnormal responderに対するGnRHアンタゴニスト法で150〜225 IU/dayが第一選択とされ、国内外の多くの施設で同様のプロトコルが採用されています。一方で体重・body mass index(BMI)・体脂肪率といった体格や体組成がゴナドトロピン反応性に影響する可能性が報告されており、BMIが高い場合には血清FSH濃度のAUCが低下し、同一のrFSH投与量でも生物学的効果が減弱する可能性が指摘されています。しかし一定量(225 IU/day)を投与した場合に体格差が血清FSH濃度や採卵成績にどの程度影響するのかは明らかではありません。今回、当院からのfollitropin alfa固定投与例における後方視的検討をご紹介いたします。
ポイント
PCOSを除くnormal/high responderでは、体重が刺激中FSHを最も強く規定する一方、follitropin alfa 225 IU/day固定投与により体格・体組成にかかわらず同程度の採卵成績が得られそうです。
引用文献
小川達之, 他. 日本受精着床学会雑誌. 2025.
論文内容
体重、BMI、体脂肪率が刺激中の血清FSHに与える影響を検討し、あわせて臨床成績を評価した後方視的研究です。
2023年1月から2024年12月に単一施設で初回採卵のCOSをGnRHアンタゴニスト法で施行した症例57例を対象とし、全例にfollitropin alfa 225 IU/dayを固定投与しました。血清FSHは月経2〜3日目(基礎FSH)とGnRHアンタゴニスト開始後3.4±0.7日目(刺激中FSH)に測定し、その差をΔFSHと定義しました。全例胚盤胞で全胚凍結としました。
結果
患者背景は年齢34.4±4.4歳、体重54.7±8.7 kg、BMI 21.3±2.9 kg/m²、体脂肪率27.8±6.1%、AMH 2.59±1.28 ng/mL、AFC 10.3±3.9個、基礎FSH 7.9±2.3 mIU/mLでした。刺激中FSH 17.4±3.4 mIU/mL、ΔFSH 9.5±3.8 mIU/mL、回収卵子数13.6±6.6個、成熟率80.6±14.9%、FOI 1.37±0.55、正常受精率63.3±17.7%、胚盤胞到達率46.1±20.4%、総投与量2132±200 IUで、重症OHSSは0例でした。
血清FSHと最も強く相関したのは体重で、刺激中FSH(r=-0.64、p<0.001)およびΔFSH(r=-0.52、p<0.001)と強い負の相関を示しました(BMIはr=-0.51、-0.37、体脂肪率はr=-0.42、-0.35)。一方、回収卵子数(体重でr=0.07、p=0.585)、成熟卵子数、成熟率、正常受精率、胚盤胞到達率とはいずれも相関を認めませんでした。FOI(r=0.30、p=0.019)およびfollitropin alfa総投与量(r=0.33、p=0.010)とは弱い正の相関が認められました。多変量線形回帰分析では刺激中FSHに対して体重(回帰係数-0.266、95%CI -0.342〜-0.190、p<0.001)と年齢(0.243、95%CI 0.074〜0.412、p=0.005)が独立した有意因子で、AMH・AFC・基礎FSHは有意ではありませんでした。ΔFSHではこれらに加えて基礎FSHが有意な負の相関を示しました(-0.964、95%CI -1.262〜-0.666、p<0.001)。回収卵子数10個未満(POR相当)は28%(16/57)で、POR群は年齢が高くAMH・AFCが低値でしたが(p=0.033、0.001、<0.001)、体格3指標、刺激中FSH、ΔFSH、胚盤胞到達率には有意差を認めませんでした。
私見
follitropin deltaが体重調整薬剤として発売され、改めてrecombinant FSH製剤と体重との関連、卵巣刺激による回収卵子数との関連を再考し、2026年日本受精着床学会雑誌優秀論文賞に選ばれた小川先生本当におめでとうございます。亀田IVFクリニック幕張として、2022年度:光井潤一郎先生、2025年度:髙柳裕子先生に続きの受賞でした。日々の臨床業務外での自己研鑽がしている姿を日々見ているので本当に嬉しく思います。
投与量という交絡を固定した設計により、「体格は血清FSH濃度を規定するが採卵成績は規定しない」という二層構造を明示した点が本研究の意義と考えます。
体格に応じた投与量調整を支持する報告(肯定派)
- Steinkampf MP, et al. Fertil Steril. 2003:肥満女性では皮下投与rFSHの血清FSH濃度AUCが低下すると報告。
- Hohmann FP, et al. Hum Reprod. 2001:75 IU/day固定投与ではBMIが高いほど発育卵胞数が減少(r=-0.44、p=0.007)。
- Abbara A, et al. Front Endocrinol. 2019:体重に応じた初期投与量の増量が回収成熟卵子数の増加に寄与。
体格の影響を認めない/中立の報告(否定派・中立)
- Kim J, et al. J Assist Reprod Genet. 2020(ABC trial):BMIと体脂肪率の双方で評価し、回収卵子数に差なし。
- Out HJ, et al. Hum Reprod. 2004:150 vs. 200 IU/dayのRCTで血清FSHには差があるが回収卵子数に差なし(10.3個 vs. 11.9個、p=0.051)。
- Hallisey S, et al. J Assist Reprod Genet. 2022:BMI分類で正倍数性率に差なし。
会場から出た質問「同じ用量のFSH製剤を投与しても、体重によって血中FSH濃度の上昇幅が異なるのはなぜでしょうか。また、血中FSH濃度に体重差がある場合、その差は発育卵胞数や採卵数にも反映されるのでしょうか。それとも、血中FSH濃度と卵巣反応は必ずしも比例しないのでしょうか。」に対して、我々はもう一段階咀嚼して回答すべき準備をすべきだったと反省しています。
改めてスタッフ間でも共有し、下記のような考察が現在の我々の回答かと考えています。
「同一用量のFSH製剤を投与しても、体重が大きい患者では、見かけの分布容積やクリアランスが大きくなるため、血中FSH濃度やAUCが低くなりやすいと考えられます。これは、FSHの吸収・分布・消失に関する薬物動態学的(PK)な差です。一方、その血中濃度差が、そのまま発育卵胞数や採卵数の差になるとは限りません。卵巣反応は、AMH、AFC、年齢、反応可能な卵胞数、卵巣のFSH感受性などの薬力学的(PD)要因によっても規定されるためです。
血中FSH濃度が、いずれの患者でも卵胞発育に必要なFSH thresholdを十分に上回っていれば、体重による濃度差があっても、発育卵胞数には明確な差が生じない可能性があります。一方、体重増加に伴うFSH曝露量の低下により、この閾値を下回る卵胞が生じれば、発育卵胞数や採卵数が減少する可能性があります。」
症例を増やし、患者に身体的負荷を最小限にとどめていく卵巣刺激を探求していきたいと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。