体外受精

2026.09.09

ESHRE2023基準で定義された反復着床不全に対する免疫療法の有効性(J Reprod Immunol. 2026)

はじめに

反復着床不全(RIF)はIVF/ICSIを繰り返しても妊娠に至らない状態で、IVF/ICSI症例の約8〜15%に認められます。その定義には長らく統一見解がありませんでしたが、2023年のESHREガイドラインにより「胚の正倍数性が不明な胚を用いた3回以上の胚移植後、もしくは正倍数性胚を用いた2回以上の胚移植後に臨床妊娠に至らない状態」と再定義されました。着床には胚と子宮内膜の複雑なシグナル伝達に加え、母体側の免疫制御と胚・胎児への免疫寛容の成立が必要とされ、これらのバランス破綻がRIFに関与すると考えられています。今回、新定義RIFに対する各種免疫調節療法の有効性を比較したネットワークメタアナリシスをご紹介いたします。

ポイント

新定義RIFではsirolimusとPRPが臨床妊娠率を、GCSF皮下注射が出生率を改善し、LMWHは着床率改善と流産率低下に有効そうです。ただし、いずれも単一〜少数試験に基づくサブグループ解析であり、著者も予備的・仮説生成的と位置づけと考えてください。

引用文献

Ying Li, et al. J Reprod Immunol. 2026;173:104825. doi: 10.1016/j.jri.2025.104825.

論文内容

ESHRE2023で新たに定義されたRIFに対する免疫療法の有効性を評価することを目的としたネットワークメタアナリシスです。PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryを2024年10月まで検索し、免疫調節療法を扱ったRCTを対象としました。臨床妊娠率、出生率、着床率、流産率をORと95%CIで評価し、解析はSTATAで行いました。

結果

2434人の女性を含む19試験が組み入れられ、9種類の免疫療法が比較されました。対照群と比較して、LMWH(OR 4.05、95%CI 1.78–9.24、SUCRA 77.1%)とPRP(OR 3.27、95%CI 1.42–7.52、SUCRA 66.5%)は着床率を有意に改善し、sirolimus(OR 3.95、95%CI 1.46–10.71、SUCRA 81.9%)とPRP(OR 3.45、95%CI 2.45–4.85、SUCRA 80.3%)は臨床妊娠率を増加させました。皮下投与G-CSF(SC-GCSF)(OR 9.00、95%CI 1.42–57.12、SUCRA 93.7%)は出生率上昇と関連しました。LMWH(OR 0.12、95%CI 0.02–0.80、SUCRA 84.6%)とPRP(OR 0.15、95%CI 0.04–0.50、SUCRA 82.2%)は流産率を低下させました。サブグループ解析では、胚移植(ET)48時間前に0.5mLのPRPを子宮内投与する方法が臨床妊娠率を高め(OR 3.96、95%CI 2.74–5.74)、流産率を低下させました(OR 0.10、95%CI 0.04–0.22)。新定義RIF患者では、sirolimusとPRPが臨床妊娠率を効果的に改善し、GCSF皮下注射が出生率を最適化しました。LMWHは着床率改善と流産率低下に最も有効でした。PRP、特に単回0.5mLの子宮内投与が、最も効果的に臨床妊娠率を高め流産率を低下させました。子宮内投与G-CSF(IU-GCSF)には有意な有益性は認められませんでした。

私見

PRPの臨床妊娠率改善効果は先行研究と一致しており、PRPが子宮内膜細胞の増殖・再生に関わる細胞過程を促進すること(Aghajanova L, et al. J Assist Reprod Genet. 2018)、RIF患者でLIF・COX2・ER・PGRの発現を高め内膜受容能を改善すること(Artimani T, et al. Reprod Sci. 2024)が機序として示唆されています。sirolimusはTreg増加とTh17抑制を介して着床予後を改善するとされます(Ahmadi M, et al. Int Immunopharmacol. 2019)。 
著者らは複数の限界を認めています。組み入れRCT数が少なく、特にsirolimusのCPR改善はTh17/Treg比が上昇した単一試験に基づくため一般化には注意を要します。また正倍数性胚を用いたRIFや、anti-TNF・LDA・PDN・HCQ・併用療法には適格試験がなく組み込めませんでした。PRPのLBR解析でも1試験(Nazari L, et al. Reprod Sci. 2022、I²=72.1%)が高い異質性のため除外されており、LBRに対するPRPの結論は慎重に解釈すべきとされています。 
総じて、本結果は仮説生成的な予備的知見であり、今後の大規模・高品質RCTによる検証が必要です。 
要するに、「何を使うか」だけでなく「いつ・どれだけ・どの経路で投与するか」で結果が大きく変わる点が補足図のポイントです。同時に同じ薬剤でも量・回数を増やして有効性がなくなっているものもあります。これは偶発的に効果があったように見えた可能性を拾ってしまっている可能性も否定できません。もう少し複数報告でも比較ができるようになって検証したい内容の報告かと思っています。 

有効性が示された用法(対照群比で有意) 

臨床妊娠率改善(Fig. A.10に記載) 

  • PBMCs:1×10⁶ cells・400μL・ET48時間前単回(OR 7.58、95%CI 1.31–43.92) 
  • PRP:0.5mL(末梢血の4倍以上の血小板濃度)・ET48時間前単回(OR 3.96、2.74–5.74) 
  • sirolimus:2mg/日 内服・ET2日前から妊娠判定日まで(OR 3.95、1.46–10.71) 
  • GCSF皮下注射:300μg・ET1時間前(OR 3.60、1.43–9.07) 
  • PBMCs:10–20×10⁶ cells・200μL・ET24時間前単回(OR 3.24、1.74–6.04) 

出生率改善(Fig. A.11に記載) 

  • LMWH:40mg/日・分娩まで継続(OR 12.50、1.52–102.85) 
  • GCSF皮下注射:0.3mg/kg/日・ET前日から判定日まで(OR 9.00、1.42–57.12) 
  • sirolimus:2mg/日・ET2日前から判定日まで(OR 3.54、1.27–9.90) 

着床率改善(Fig. A.12に記載)/流産率低下(Fig. A.13に記載) 

  • LMWH 40mg/日・分娩まで継続(IR:OR 4.05、1.78–9.24) 
  • PRP 0.5mL単回・ET48時間前(IR:OR 3.27、1.42–7.52/MR:OR 0.10、0.04–0.22) 

有意差を認めなかった(=否定的だった)用法 

投与方法そのものが無効だった療法 

  • 子宮内投与G-CSF:300μg・採卵日(CPR OR 2.25、0.43–11.76)も、30mIU・hCG投与日(OR 1.67、0.85–3.30)もいずれも全アウトカムで有意差なし。皮下投与(SC-GCSF)が有効なのと対照的です。 
  • hCG子宮内投与・IVIG・intralipid:いずれのアウトカムでも有意な有益性なし。 

同じ療法内で「効かなかった用法」(用法依存性) 

  • PRP:0.5mL単回は有効ですが、0.5–1mLを単回または2回投与する用法は臨床妊娠率(OR 1.55、0.64–3.76)・流産率(OR 0.67、0.08–5.54)とも有意差なし(Fig. A.14, A.15に記載)。投与量を増やしたり回数を分けると効果が消失します。 
  • PBMCs(量):200μLは有効(OR 3.24)ですが、400μL(OR 3.26、0.97–11.02)・500μL(OR 2.57、0.86–7.69)は有意差なし(Fig. A.16Aに記載)。 
  • LMWH(投与期間):分娩まで継続すると出生率が改善しますが、12週までで中止した場合は有意差なし(OR 1.53、0.76–3.07)。用量別(40mg/日 vs 1mg/kg/日)では臨床妊娠率・出生率とも差を認めませんでした(Fig. A.17に記載)。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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