
はじめに
PGT-Aの実施は年齢だけでなく、卵巣予備能や得られる胚数にも左右されます。今回ご紹介するのは、米国の全国登録(SART CORS)を用いたリアルワールドの横断研究です。本研究はPGT-Aの「効果」を検証したものではなく、実臨床で「PGT-Aが誰に使われているか」という利用実態を年齢層別に記述し、観察研究を解釈するうえで参考になると思い、とりあげさせていただきます。
ポイント
卵巣予備能が低い(AMH低値)患者ほど全年齢層でPGT-A実施率が低く、PGT-A施行群は予後良好な選択集団に偏っている可能性があります。
引用文献
Barad DH, et al. Hum Reprod Open. 2026. doi: 10.1093/hropen/hoag052.
論文内容
AMHで評価した卵巣予備能が、自己卵子IVFサイクルにおける年齢層別のPGT-A実施に関連するかを検討することを目的とした横断研究です。米国SART CORSデータベースを用い、2014年から2021年に実施された患者ごとの初回・自己卵子卵巣刺激周期を解析しました。対象は21~46歳の女性で、提供卵子・提供胚・代理懐胎周期、ゴナドトロピン<150 IU/日の周期、主要データ欠損例は除外しました。PGT-A実施の有無で分類し、卵巣予備能は治療前1年以内に測定された直近のAMH値を主指標としました。多変量ロジスティック回帰により、年齢・暦年・人種・総ゴナドトロピン量・妊娠歴・過去のART歴を調整のうえ、AMHとPGT-A実施の関連を評価し、年齢×AMHの交互作用をあらかじめ検定しました。臨床妊娠・出生といった臨床アウトカムは評価していません。
結果
適格基準適用後、258,532周期が解析対象となり、うち190,039周期(74%)がPGT-A非施行、68,493周期(26%)が施行でした。AMH中央値はPGT-A施行群で有意に高値でした(中央値2.2[IQR 1.2–3.9]ng/mL vs 2.0[IQR 1.0–3.7]ng/mL、P<0.0001)。施行群はより高齢で(中央値36歳 vs 35歳、P<0.0001)、採卵数>12個の割合が高く(52.6% vs 41.5%、P<0.0001)、卵巣感受性指数(OSI)も高値でした(3.7[2.0–6.5] vs 3.2[1.5–6.1]、P<0.0001)。採卵数4個以上の女性は4個未満に比べPGT-A実施が有意に多く認められました(OR 2.25、95%CI 2.18–2.32)。PGT-A施行群は利用可能胚数が多く(中央値4[2–6] vs 3[1–5]、P<0.0001)、凍結胚数も多く(4[2–6] vs 1[0–4]、P<0.0001)、移植胚数は少数でした(1[1–2] vs 2[1–2]、P<0.0001)。多変量調整後も、AMH低値は連続変数・1 ng/mLでの二分のいずれでもPGT-A実施率低下と独立に関連しました。全年齢層でAMH≥1 ng/mLはAMH<1 ng/mLより有意にPGT-A実施が多く、調整後ORは1.41~1.50でした(<35歳 aOR 1.50、35–37歳 1.45、38–40歳 1.41、>40歳 1.41)。副次解析では、AMHは登録診断としての卵巣予備能低下(DOR)よりPGT-A実施と一貫した関連を示しました。
私見
なぜAMH低値でPGT-Aが減るのか。これは二つの機序が重なった結果と理解できます。
- 実行可能性の問題:AMH低値→採卵数減少→胚盤胞数減少のため、そもそも生検まで到達しない、または到達しても胚が1~2個しか残らない。
- 臨床判断の問題:PGT-Aは胚の本質的能力を変えるものではなく、コホート内で胚を「順位づける」選択ツールです。選ぶ対象が少なければ得られる利益は小さく、生検による胚喪失・誤判定リスクだけが相対的に大きくなる。
当院でも胚数の見込みを踏まえてPGT-A適応を判断していますが、無意識のうちにPGTを推奨する患者層に偏りが生じている可能性があるなと改めて、この論文を読みながら感じた次第です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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