
はじめに
オメガ3脂肪酸(α-リノレン酸=ALA、EPA、DHA)は体内で合成できない必須の多価不飽和脂肪酸(PUFA)で、食事から摂取する必要があります。このうちALAは植物由来で、体内でEPA・DHAへ変換されますが変換効率は低いとされます。オメガ3はホルモンバランスや卵子の質、着床の改善、抗炎症作用を通じて妊孕性を支えると報告される一方、相反する結果も存在します。今回、不妊治療中および自然妊娠を計画する女性において、サプリメントまたは食事からのオメガ3摂取が妊娠・受精に及ぼす影響を評価したメタアナリシスをご紹介いたします。
ポイント
オメガ3摂取(サプリメントまたは魚中心の食事)は女性の妊娠率・受精率を有意に改善する可能性がありますが、研究間の高い異質性により解釈には限界が残ります。
引用文献
Trop-Steinberg S, et al. Heliyon. 2024;10:e29324. doi: 10.1016/j.heliyon.2024.e29324.
論文内容
オメガ3摂取の増加が女性の受精率および妊娠の可能性に及ぼす効果を評価することを目的としたシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。
PubMed、ClinicalTrials、CINAHL/EBSCO、Medline Complete、Cochrane Library、Google Scholarを用い、2021年4月までに英語で発表された論文を検索しました。検索語には「IVF」「ICSI」「妊娠」「オメガ3脂肪酸」「α-リノレン酸(ALA)」「EPA」「DHA」「n-3系多価不飽和脂肪酸(=オメガ3)」「魚油・魚介類」を用いました。自然妊娠またはIVF/ICSIにおいてオメガ3摂取を併用した女性不妊を報告した研究を対象とし、後ろ向き研究、閉経後女性を含む研究、対照群と研究群が均等にマッチしていない研究は除外しました。バイアス評価にはCochrane Handbook(version 5.1.0)を用い、各研究における臨床妊娠と受精率のOR(抽出または算出)を統合してメタアナリシスを実施しました。
結果
不妊治療を受けた女性を対象とした6試験(1789人)、自然妊娠した女性を対象とした4試験(2607人)、受精率を対象とした3試験(1725個の卵子)を組み入れました。オメガ3が妊娠に及ぼす効果の統合ORは、不妊治療群で1.74、自然妊娠群で1.36、受精率で2.14でした。いずれの結果も有意(p ≤ 0.01)でしたが、I²>68%と高い異質性を認めました。
私見
肯定的な先行知見として、本論文では以下が引用されています。
- Hammiche F, et al. Fertil Steril. 2011.
妊娠前のオメガ3摂取増加が胚形態を改善 - Chiu YH, et al. Hum Reprod. 2018.
血清オメガ3が高いほど妊娠の可能性が高い - Mirabi P, et al. Lipids Health Dis. 2017.
妊娠群でEPA値が高い - Trop-Steinberg S, et al. Isr Med Assoc J. 2023.
クロミフェン誘発のPCOS女性でオメガ3が臨床妊娠率を改善: RCT
一方、否定的・中立的な知見も併せて論じられています。
- Gatti CR, et al. Front Physiol. 2021.
妊娠前後のオメガ3摂取は妊娠率に有意な効果なし。メタアナリシス - Stanhiser J, et al. Hum Reprod. 2020.
自然妊娠の成否で血清オメガ3に有意差なし - Sugawa M, et al. Reprod Med Biol. 2018.
日本人女性で食事パターンとIVF成績に有意な関連なし
生活習慣・プレコンセプションケアの一環として安全かつ非侵襲的にオメガ3を勧める余地はあると考えますが、安全用量・推奨量・至適投与期間を定める根拠はなく、結果はあくまで「方向性の示唆」にとどまる点に留意が必要です。当院で患者さんへ説明する際も、サプリメントを治療効果として過度に期待させず、魚を中心とした食事の一助として位置づけるのが妥当と考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。