
はじめに
ω3脂肪酸は体内で作れず食事からとる必要があり、青魚に多いEPA・DHAと、えごま油・亜麻仁油に多いα-リノレン酸(ALA)があります。日本人の魚介類の摂取は2001年をピークに減り続けており、生殖年齢の方でEPA・DHA不足が心配されています。今回、妊娠中期からの油の摂取が産後の心の健康に与える影響を調べた研究をご紹介いたします。
ポイント
妊娠中にえごま油などのα-リノレン酸(ALA)をとることが、産後1か月時点の母体のメンタルヘルスを安定させる可能性が示されました。
引用文献
Harauma A, et al. Nutrients. 2023;15(20):4388. doi: 10.3390/nu15204388.
論文内容
妊娠中期から、えごま油または魚油に含まれるω3脂肪酸を12週間とった女性の産後メンタルヘルスを調べ、あわせて母体の赤血球中の脂肪酸と心の状態との関連を検討した研究です。
健康な日本人の初産婦(妊娠18~25週)を無作為に2群へ分け、約2.0 g/日のω3脂肪酸を、えごま油(ALA 2.4 g/日)または魚油(EPA+DHA 1.7 g/日)として12週間摂取させました。心の状態は、主要評価項目としてエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)、副次評価項目として母子愛着尺度(MIBS)で評価しました。別の時期に行われた観察研究のデータをヒストリカルコントロール(比較対照)として用いています。母体血・臍帯血・初乳を採取して脂肪酸組成を分析し、さらに観察研究の完了者を対象とした症例対照研究で、母体の脂肪酸とEPDSスコアの関連をロジスティック回帰分析により検討しました。
結果
エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)高値(≥9)の割合は、ヒストリカルコントロール(21.6%)と比べて、えごま油群(12.0%、p=0.044)で有意に低い一方、魚油群(22.3%、p=0.882)では差を認めませんでした。えごま油群と魚油群の間でも低下傾向がみられました(p=0.059)。
母子愛着尺度(MIBS)ではω3脂肪酸摂取による明らかな効果は認めませんでした。観察研究の症例対照研究では、母体赤血球中のALA高値はEPDS<9と関連しました(OR 0.23、95% CI 0.06–0.84、p=0.018 for trend)。
私見
油は含まれる脂肪酸によって大きく次のように分けられます。
- 飽和脂肪酸が主体:
ココナッツ油、パーム油、バター、ラードなど(常温で固まりやすい) - 一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)が主体:
オリーブ油、菜種(キャノーラ)油、米油など - ω6系(リノール酸)が主体:
大豆油、コーン油、ごま油、紅花油、ひまわり油など - ω3系:
ALAはえごま油・亜麻仁油・くるみ・チアシードなど、EPA・DHAは青魚(イワシ・サバ等)に多い
論文では「ω6/ω3比そのものの変化が情動を左右するとは考えにくい」と考察しています。えごま油特有の代謝産物(オキシリピン等)の関与も示唆されています。
脂肪酸化学の正式な分類では、短鎖脂肪酸=C2〜6、中鎖=C8〜12、長鎖=C14以上、超長鎖=C22以上、とされます。この定義に当てはめると、ALA(C18)もEPA・DHA(C20・C22)もすべて「長鎖脂肪酸」になります。一方、ω3栄養の文脈では、植物由来で体内変換が必要なALAを「短鎖ω3」、魚由来で生理活性を直接担うEPA・DPA・DHAを「長鎖ω3(LC n-3 PUFA)」と呼び分けるのが慣例です。これは炭素数ではなく「ALA vs. その下流の魚由来代謝物」という機能的な区別です。
長鎖ω3が生殖に良いというのは大きいのですが、短鎖ω3がよいという報告はあまりないので新鮮な報告だなと思って読んでいました。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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