
はじめに
子宮内膜細菌叢は生殖予後に影響する因子として注目されています。かつて子宮腔内は無菌と考えられていましたが、NGSの進歩により固有の細菌叢の存在が示され、Morenoらは子宮内Lactobacillus相対量90%未満で着床率・出生率が低下すると報告しています。一方でHaahrらのRCTでは、腟内dysbiosisをクリンダマイシンとL. crispatusで治療しても臨床妊娠率は改善せず、腟内環境の「治療」ではなく「子宮内膜環境を反映する指標」としての価値が問われています。今回、Nugent scoreが、子宮内膜の病原菌検出および子宮内Lactobacillus量と関連するかを検討した2施設後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
Nugent score(ラクトバチルス)高値は子宮内Lactobacillus減少および子宮内膜病原菌検出と関連しますが、判別能は低く、直接の子宮内膜評価の代用にはなりません。
引用文献
Kawai K, et al. Front Endocrinol. 2026. doi: 10.3389/fendo.2026.1926579
論文内容
不妊女性において、腟内Nugent Lactobacillus morphotype score(LMS)が子宮内膜の病原菌検出および子宮内Lactobacillus量と関連するかを検討することを目的とした、2施設後方視的観察研究です。
2025年3月から12月に、腟内Nugentスコアリングと子宮内膜qPCRを同日に施行された不妊女性282名(Centre A:n=92、Centre B:n=190)を対象としました。除外基準は検査前1か月以内の抗菌薬使用およびプロバイオティクス使用です。LMSはGram染色による大型グラム陽性桿菌の半定量評価(≥30/視野=0、5–30=1、1–4=2、<1=3、0=4)で、スコアが高いほどLactobacillus morphotypeが少ないことを意味します。子宮内膜検体は分泌期にEMMA/ALICE(子宮内細菌叢検査)で解析しました。主要評価項目はLMSと子宮内膜病原菌検出のSpearman順位相関、副次評価項目はLMSと子宮内Lactobacillus総量および菌種別の関連です。
結果
LMSは子宮内膜病原菌検出と有意な正の相関を示しました(ρ=+0.229、p<0.001)。施設・年齢・BMI・RIFで調整後も、LMS 1点上昇ごとの病原菌検出のオッズは上昇しました(adjusted OR 1.40、95%CI 1.17–1.68、p<0.001)。しかし判別能は限定的で(AUC 0.636、95%CI 0.567–0.705)、LMS 0でも病原菌検出率は23.3%残存しました。LMSは子宮内Lactobacillus総量(ρ=−0.488、p<0.001)およびL. crispatus(ρ=−0.411、p<0.001)と負の相関を示し、L. inersは弱い相関(ρ=−0.137、p=0.021)、L. gasseri(ρ=+0.069、p=0.251)とL. jensenii(ρ=−0.084、p=0.160)は有意ではありませんでした。LMS 4の56例は全例(100%)が子宮内L. crispatus陰性でした。
子宮内Lactobacillus総量の中央値はLMS 0–4でそれぞれ4,746、1,482、812、1,676、0 copies/mLでした。
私見
子宮の中はかつて無菌と考えられていましたが、Mitchellら(Am J Obstet Gynecol. 2015)が子宮摘出を受けた女性58名中52名(90%)で腟由来の菌を検出し、その常識は覆されました。Morenoら(Am J Obstet Gynecol. 2016/Microbiome. 2022)は子宮内Lactobacillus割合が90%未満だと着床率・出生率が下がると報告しており、これが本研究の検査パネルの土台になっています。日本人妊婦を対象としたOguriら(Nat Commun. 2025)でも、妊娠初期に腟内L. crispatusが多い方の経過が良好でした。
ただし、これらに懐疑的な報告がないわけではありません。腟内環境は子宮内環境とある程度関連すると考えられていますが、Haahrら(Nat Commun. 2025)は体外受精を受ける338名のRCTにおいて、抗菌薬とL. crispatusの補充で腟内環境を整えても妊娠率は改善しないことを示しました。またSola-Leyvaら(Hum Reprod Open. 2026)は、子宮内でLactobacillusのDNAは検出されるものの、実際に活動している証拠は得られなかったと報告しています。
実用面で最も重要なのは、腟内が最も良好なLMS 0の方でも23.3%で子宮内に細菌が検出されたという数字です。「腟がきれいだから子宮内も大丈夫」とは言えません。腟の検査だけで子宮内膜検査や抗菌薬治療を判断すべきではなく、反復着床不全や慢性子宮内膜炎が疑われるなど、もともと子宮内膜の評価を検討している方の参考情報という位置づけが妥当と考えます。CD138免疫染色と細菌叢検査を組み合わせた個別の評価は、引き続き必要です。
本研究は、子宮内細菌叢の領域を国内で牽引してこられた神谷レディースクリニックとの共同研究です。わかりにくい子宮内細菌叢、慢性子宮内膜炎、細菌性腟症といったテーマを整理してお伝えできるよう、今後も論文や学会での報告を続けてまいります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。