体外受精

2022.11.15

タイムラプス培養における胚盤胞到達率の有効性とアミノ酸解析(Hum Reprod. 2022)

はじめに

タイムラプス培養における標準的なベンチトップ培養に比べて、胚への負担が少なく、胚盤胞到達率が高い可能性が以前より報告されています。今回の研究は、インキュベーターの種類が胚盤胞到達率や胚のアミノ酸利用率に影響を与えるかを調査した前向き研究です。

ポイント

タイムラプス培養を行うと標準的なベンチトップ培養と比較して、受精後5日目の胚盤胞到達率が高く、受精後3日目から5日目までのアミノ酸利用率に変化がみられました。

引用文献

Alexandra J Kermack, et al. Hum Reprod. 2022 Oct 26;deac233. doi: 10.1093/humrep/deac233

論文内容

イギリス大学病院において、585個のsibling胚を23ヶ月間にわたり、タイムラプス培養(289個)または標準的なベンチトップ培養(296個)のいずれかに無作為に割り付けた前向き研究です。
参加者は42歳以下で、AFCが12以上、2PNが6個以上でした。胚は25μlの培地で個別に培養されました。ランダム化された胚は、5日目に移植または凍結保存のためにGardner分類にて評価しました。高圧液体クロマトグラフィーによるアミノ酸分析のために、5日目に使用済み培地を採取しました。臨床的妊娠は、7週目の超音波検査で胎児心拍が確認された場合と定義しました。

結果

5日目の胚盤胞到達率は、標準的なベンチトップ培養(45%)と比較してタイムラプス培養(55%)の胚が高くなりました(P=0.013)。また、移植有効胚盤胞数も、標準的なベンチトップ培養(23%)と比較してタイムラプス培養(31%)で増加しました(P=0.032)。タイムラプス培養で3日目から5日目まで培養した胚盤胞の12種類のアミノ酸の利用率には、標準的なベンチトップ培養と比較して差を認めました。タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚と比較して、総アミノ酸利用量の増加(P<0.001)およびアミノ酸生成量の減少(P<0.001)を示しました。ICSI胚は、使用したインキュベーターに関係なく、IVF胚に比べて、培地から有意に多くのアミノ酸を消耗しました。胚盤胞移植胚のスコアリングや臨床妊娠率に差は認めませんでした。
今回はG1+/G2+を用いたsequential mediumでの個別培養の検討です。タイムラプス機材はEmbryoScopeを用いています。凍結・移植基準はGardner分類3BB以上としています。アミノ酸は生成量、消耗量、turn over量(生成量、消耗量の合計)を算出しています。

私見

今回の論文は何よりアミノ酸分析の結果が興味深いです。 

タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚に比べてアミノ酸消耗が多い 

タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚と比較して、アルギニン、スレオニン、チロシン、メチオニン、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシンおよびリジンを著しく消耗していました。これらのアミノ酸は、8細胞期以降のより生存力の高い胚の発生をサポートすることが示されているため、タイムラプス培養胚がより発生的能力が高い胚であったことを二次的に捉えた可能性が示唆されます。さらに、必須アミノ酸は、8細胞期以降の分割率を高め、マウスでは胚盤胞の内部細胞塊の発達を刺激することがわかっています。 

ICSI胚はIVF胚に比べてアミノ酸消耗が多い 

タイムラプス培養および標準的なベンチトップ培養のいずれにおいても、IVF胚に比べてICSI胚では総アミノ酸の消耗が多くなっています。可能性として、ICSIでダメージの多い精子注入となること、ICSI手順(卵丘細胞の除去、卵子の注入など)に関連した障害などがあげられます。ICSI操作を掘り下げて考えてみると、ICSIでは早期から卵丘細胞と卵子の協力関係は失われます。卵子はパラクラインシグナルを用いて卵丘細胞によるアミノ酸の取り込みを促進し、アミノ酸はギャップジャンクションを介して卵子に輸送される部分に障害が発生している可能性が考えられます。そのほかにも、注入によるダメージ、および卵子の細胞質が培養液に直接さらされる割合の増加などが原因として挙げられます。 

関連コラム 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# タイムラプス

# 胚盤胞

# 媒精(IVF)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

「トリガー採卵タイミング」を延ばすと回収卵が増えるか(Reprod Med Biol. 2026)

2026.08.31

PIEZO-ICSIを用いた凍結融解単一胚盤胞移植後の妊娠予後(当院関連論文:J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.08.19

男性不妊以外におけるICSIの適応について:ASRM Practice Committees(Fertil Steril. 2026)

2026.08.17

0PN・1PN由来胚盤胞は利用可能胚が含まれる(Fertil Steril. 2025)

2025.11.21

内膜症性卵巣嚢胞患者に対する手術前受精胚凍結保存(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.13

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08