
はじめに
慢性子宮内膜炎(CE)は、子宮内膜間質にCD138陽性形質細胞が浸潤する持続的な局所炎症です。不妊、反復着床不全(RIF)、不育症(RPL)との関連が報告されています。次世代シークエンサー(NGS)を用いた研究では、Lactobacillusが少ない「非Lactobacillus優位細菌叢(NLDM)」が不良な生殖予後と関連するとされてきました。一方で、CEの診断自体はいまだ過渡期にあります。組織学的炎症に対応するのが特定の病原菌なのか、細菌叢全体の乱れ(dysbiosis)なのかは、明らかになっていません。今回、CD138免疫染色、子宮内膜qPCR、子宮鏡を同時に評価した、当院と神谷レディースクリニックの共著論文をご紹介いたします。今後も、EMMA/ALICE検査の位置づけをより明確にし、不妊治療に組み込む有用性を検証し続けていきたいと考えています。
ポイント
ALICE菌のqPCR検出は、CD138陽性CEと強く関連しました(特異度97.1%、PPV 84.6%)。一方、EMMA菌やLactobacillusの検出とは関連せず、CD138陽性例の約8割はALICE菌陰性でした。
引用文献
Shogo Nishii, et al. Front Immunol. 2026;17:1928249. doi: 10.3389/fimmu.2026.1928249.
論文内容
子宮内膜qPCRで検出される3種類のDNAについて、偶発的な子宮内膜ポリープとは独立して、CD138で定義されたCEと関連するかどうかを検討した研究です。3種類とは、以下を指します。
・ALICE菌
・EMMA菌
・Lactobacillus
対象は、CD138免疫染色と子宮内膜qPCRを同時に実施し、子宮鏡も受けていた不妊女性126人です。採取前1か月以内に抗菌薬を使用した女性と、Lactobacillusプロバイオティクスを使用した女性は除外しました。解析は、事前規定の2つのポリープ除外解析、子宮内膜症または子宮腺筋症の女性を除外した解析、多変量ロジスティック回帰で行いました。
結果
CD138陽性の子宮内膜は、126人中57人(45.2%)に認められました。
ALICE菌の検出は、CD138陽性と関連していました(OR 8.01, 95%CI 1.70–37.85, P=0.003;exact conditional OR 7.89, 1.61–76.56)。特異度97.1%、PPV 84.6%、感度19.3%でした。ただし、この結果はALICE菌陽性の女性13人(うち11人がCD138陽性)のみに基づいており、推定値は不正確です。
EMMA菌の検出は、CD138陽性と関連しませんでした(OR 0.55, 0.25–1.22, P=0.171)。Lactobacillusの検出も、CD138陽性と有意な関連はありませんでした(OR 0.54, 0.27–1.11, P=0.107)。CD138陽性女性ではLactobacillusの報告値が低い傾向が複数の解析で一貫していましたが、示唆的な所見にとどまり、確証的ではありません。逆に、CD138陽性女性の80.7%(46/57)ではALICE菌が検出されませんでした。
ポリープ除外後も関連は維持され(OR 17.44および18.79)、他のカテゴリーは非有意のままでした。子宮内膜症または子宮腺筋症の女性を除外した後も、関連は持続しました(OR 8.32, 1.75–39.60)。
以上より、ALICE菌の検出は、偶発的ポリープとは独立してCD138陽性CEと関連しました。一方、EMMA菌の検出は関連しませんでした。
私見
本研究で最も重要なのは、CD138陽性CEと関連したのが「ALICE菌の検出」のみだった点です。EMMA菌やLactobacillusの検出とは関連しませんでした。この結果は、以下の先行研究と整合します。
・Klimaszyk K, et al. J Appl Genet. 2025
qPCRによる細菌検出とCD138定義CEに相関はありませんでした。
・Hiratsuka D, et al. Sci Rep. 2025
dysbiosis検査とCE検査は、別の病態を捉えている可能性を示しています。
・Moreno I, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018
組織・子宮鏡・培養の3者一致は20%にとどまりました。
NGS研究では、NLDMが生殖予後と結びつくとされてきました。NGSは相対存在比で報告するため、Lactobacillusの減少とNLDMが数学的に連動します。一方、個々の菌を絶対的に評価するqPCRでは、炎症との関連は「ALICE菌の検出」という軸に限って現れました。
ポリープは、CEとの関連が報告されています(Vitagliano A, et al. Diagnostics. 2021)。本研究でも、ポリープはALICE菌とは独立してCD138陽性に寄与しました(adjusted OR 3.80)。また、CD138陽性例の約8割はALICE菌陰性でした。その背景として、非感染性炎症、検査パネル外の細菌、子宮内膜症に伴う無菌性炎症が考えられます(Cicinelli E, et al. Fertil Steril. 2017)。
臨床現場でCEを疑う場合は、まず子宮鏡でポリープを除外・治療したうえで、CD138とqPCRを同一周期に評価することが望ましいと考えます。ALICE菌が陽性であれば、CD138陽性CEの可能性は高くなります(PPV 84.6%)。ただし、菌DNAの検出は活動性感染を意味するものではありません。また、陰性であってもCD138陽性CEは除外できません。さらに、Lactobacillusの減少やNLDMのみを根拠にCE標的の抗菌薬治療を行うべきではない、というのが本論文の立場です。
限界として、単施設後ろ向き研究であること、ALICE菌陽性が13例と少ないこと、生殖予後と治療反応のデータがないことが挙げられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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