体外受精

2026.10.23

マウスSREBP1欠損が慢性子宮内膜炎の炎症を増悪させる(Front Immunol. 2025)

はじめに

慢性子宮内膜炎(CE)は子宮内膜間質に形質細胞(CD138陽性細胞)が浸潤する遷延性の軽度炎症で、原因不明不妊・反復流産・ART不良成績との関連が指摘されています。反復着床不全女性の30〜57%、原因不明反復流産女性の10〜50%超にCEが報告されています。多くは細菌感染が契機とされ広域抗菌薬が第一選択ですが、約25%は抗菌薬を繰り返しても炎症が遷延し、耐性菌の懸念もあります。抗炎症作用をもつω3系多価不飽和脂肪酸であるEPAに着目し、脂質代謝異常がCEの病態に関与するかをマウスモデルとヒト検体で検討した基礎研究をご紹介いたします。

ポイント

脂質代謝制御因子SREBP1の欠損による内膜EPA含有リン脂質の減少が炎症遷延と流産を招き、EPA食で改善しました。

引用文献

Matsuda S, et al. Front Immunol. 2025 Jun 5;16:1547949. doi: 10.3389/fimmu.2025.1547949.

論文内容

脂質代謝の制御異常がCEの病態と妊娠予後に及ぼす影響を、新規マウスモデルとヒト内膜検体を用いて検討した基礎研究です。
方法として、8週齢雌マウスの各子宮角にLPS10µg(1匹あたり20µg)または生理食塩水を投与し、CD45(汎白血球マーカー)およびCD138(形質細胞マーカー)の免疫染色、バルクRNA-seq、LC-MS/MSによる脂肪酸・リン脂質の解析を行いました。
外因性ω3 PUFAの影響を除くため魚粉非含有食を用い、一部の群には5%EPA添加食を投与しました。さらに着床期(排卵後5〜7日)に内膜生検を受けた反復着床不全(n=5)または反復流産(n=6)の計11例を対象に内膜のリピドミクス解析を実施し、CD138陽性細胞でCE(5例)と非CE(6例)に分けて比較しました。

結果

野生型(WT)では子宮内LPS投与により1日目に白血球が集積し、CD138陽性形質細胞は3日目にピークに達した後に減少し、脂質組成はPUFA優位へ移行(炎症収束相)しました。一方Srebf1欠損(Srebf1-/-)マウスでは7日目でも形質細胞集積が遷延し、TNFα/NF-κB、IL-6/JAK/STAT3、インターフェロン応答などの炎症関連遺伝子セットが上昇し、PUFAへの移行が抑制されました。リピドミクスではSrebf1欠損で内膜のEPA(C20:5)を含む脂肪酸が低下していました。妊娠への影響では、生食群では両遺伝子型で出生児数・児体重に差がなく(WT・Srebf1-/-いずれも1.3±0.1g、p=0.92)、LPS投与後はWTが平均6.5±0.9匹であったのに対しSrebf1-/-は0匹でした。Srebf1-/-では着床は成立するものの妊娠喪失(吸収胚+子宮内胎児死亡)が有意に増加し、胎盤実質の菲薄化とCD31陽性毛細血管面積の有意な減少を認めました。
5%EPA食はSrebf1-/-においてCD45・CD138集積を低下させ(CD138はWT対照食と同等まで減少)、出生児数を増加、妊娠喪失を減少、胎盤のCD31陽性面積を回復させましたが、WTでは明らかな上乗せ効果はみられませんでした。
ヒト検体では遊離EPAはCE群と非CE群で差がない一方、主要なEPA含有リン脂質(PC = phosphatidylcholine 16:0-20:5、PE = phosphatidylethanolamine 16:0-20:5・18:0-20:5・18:1-20:5)がCE群で有意に低値でした。遊離DHAおよびDHA含有リン脂質には有意差を認めませんでした。

私見

脂質・PUFAと妊娠予後については、地中海食遵守が35歳以上の初回体外受精で臨床妊娠・出生率を高めるとの報告(Karayiannis D, et al. Hum Reprod. 2018)、脂質代謝が内膜受容能に関与するとの総説(Yang T, et al. Hum Reprod Update. 2022)、n-3/n-6比の偏りがプロスタグランジン過剰産生を介して着床を妨げうるとの指摘(Chen M, et al. Biomolecules. 2021)が引用されています。

この論文の留意点として、動物モデルが主体で、ヒトデータはRIFまたはRPL混在の11例という小規模リピドミクスに留まります。マウスモデルが主に「着床後の胎児喪失」を呈する点、ヒトでは遊離EPAに差がなくリン脂質画分でのみ差を認めた点も限界として明記されており、EPAと妊娠予後の因果やCEにおけるEPA摂取の臨床効果は未検証です。体内の脂肪酸の大半はリン脂質として存在するため(遊離型は5%未満、リン脂質が約30%)、ヒトでのPUFA評価基準をどのようにするか今後検証が必要です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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