
はじめに
従来の胚融解法は、凍結保護剤(CPA)を段階的に希釈し浸透圧ストレスを軽減するためのマルチステップ法が標準でした。近年、操作を簡略化するワンステップ融解法への関心が高まっており、複数の予備的研究で同等の有効性が報告されています。今回ご紹介する論文は、ガラス化保存胚盤胞に対するワンステップ融解法の有効性および安全性を、従来のマルチステップ法と比較し、3段階で臨床的に検証した報告です。
ポイント
ワンステップ融解法は胚盤胞の生存率・完全形態維持率・移植率を改善し、継続妊娠率は同等で、流産率も低下傾向を示しました。
引用文献
De Gheselle S, et al. Hum Reprod. 2026;41(4):531-540. doi: 10.1093/humrep/deag021.
論文内容
ベルギーのGhent大学病院単施設で実施された3段階の検証研究で、ガラス化保存胚盤胞のワンステップ融解法と従来のマルチステップ融解法を比較することを目的としました。
第1段階のリスク解析、第2段階の前臨床検証(n=246胚盤胞)、第3段階の1年間の臨床比較(2024年3月~2025年3月のワンステップ法 n=1925周期 vs. 2023年3月~2024年3月のマルチステップ法 n=1744周期)の3段階で実施されました。
前臨床段階では、ガラス化保存された余剰胚およびPGT後の非移植胚を使用し、生存(細胞の50%以上が無傷)、完全形態(100%無傷)、移植適性を評価しました。臨床段階では、PGT実施の有無および凍結日(Day 5/Day 6)で層別化し、生存率・移植率・妊娠転帰を後方視的に比較しました。
凍結および融解に使用された試薬はすべてFujifilm Irvine Scientific社(Santa Ana, CA, USA)製品でした。凍結(ガラス化保存)試薬は、非PGT Day 5胚盤胞(2017年1月23日~2018年4月24日凍結分)にVit Kit-Freezeを、PGT Day 5胚盤胞(2023年1月25日~2023年3月31日凍結分)およびPGT Day 6胚盤胞(2023年2月3日~2023年8月22日凍結分)にVit Kit-Freeze NXを使用しました。融解試薬は、マルチステップ法では2022年7月15日までVit Kit-Warm(スクロース含有、HEPES単独緩衝液)、2022年7月16日以降はVit Kit-Warm NX(トレハロース含有、HEPES/MOPS二重緩衝液)を、ワンステップ法ではVit Kit-Warm NX(1Mトレハロース含有融解液 [TS])を使用しました。ワンステップ法はLiebermannら(2024)のプロトコルを採用し、ストローを37℃の融解液400 µLに1分間浸漬する1段階法ですが、Liebermannらの原法がスクロース含有の従来版Vit Kit-Warmを使用していたのに対し、本研究ではトレハロース含有のNX版を使用している点が相違点です。マルチステップ法は3段階(TS、DS、WS)で計13分を要する従来法でした。融解後の培養については、前臨床検証段階ではワンステップ融解後の胚盤胞をEmbryoScope™(Vitrolife社、タイムラプスインキュベーター)で24時間培養し、再拡張能および再拡張時間を評価した後、Live/Deadキット(L-3224)による生存性染色を実施しました。臨床段階では融解後2時間で移植適性を評価(50%以上無傷を移植適応の基準)し、当日に単一凍結融解胚移植(single frozen embryo transfer; sFET)を実施しました。
| 評価項目 | タイミング | 基準 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 生存率(survival) | 融解直後 | ≥50%無傷 | 凍結融解の基本的成功 |
| 完全形態維持率(fully intact) | 融解直後 | 100%無傷 | 最高品質の維持 |
| 移植適性(transfer suitability) | 融解2時間後 | ≥50%無傷 | 実際に移植可能か |
結果
前臨床段階では、ワンステップ群の胚盤胞生存率(50%以上無傷)は99.1%で、マルチステップ群96.8%と比較して有意差を認めませんでした(P=0.0924)。一方、完全形態維持(100%無傷)はワンステップ群85.4% vs. マルチステップ群76.3%でワンステップ群が有意に高く(P=0.0058)、融解2時間後の移植適性もワンステップ群96.7% vs. マルチステップ群91.2%とワンステップ群が有意に高い結果でした(P=0.0076)。タイムラプス観察ではワンステップ群の93.9%で再拡張が確認され、平均再拡張時間は3.3±2.7時間(最短0.5時間、最長19.8時間)でした。蛍光生存染色では、ワンステップ群241個のうち31.6%が細胞損傷なし、58.9%が軽度損傷(1-10細胞)、5.8%が中等度損傷(>10-20細胞)、3.7%が高度損傷(>20細胞または完全変性)であり、全体の90.5%が損傷なしまたは軽度のみでした。
臨床コホートでは、ワンステップ群で複数のサブグループにおいて有意に高い生存率を示し、非PGT Day 5(ワンステップ98.5% vs. マルチステップ96.1%、P=0.0003)、非PGT Day 6(ワンステップ97.7% vs. マルチステップ93.9%、P=0.0073)、PGT Day 5(ワンステップ100% vs. マルチステップ98.2%、P=0.0407)で有意差を認めました。
完全形態維持率は全サブグループでワンステップ群が有意に高く(非PGT Day 5:88.1% vs. 70.7%、P=0.0001、PGT Day 5:93.4% vs. 77.9%、P=0.0001など)、移植率は非PGT Day 5(98.6% vs. 92.9%、P=0.0001)、非PGT Day 6(95.6% vs. 86.6%、P=0.0010)、PGT Day 5(99.6% vs. 95.7%、P=0.0050)で有意に高い結果でした。
一方で初期妊娠転帰では、非PGT Day 5の臨床妊娠率はマルチステップ群がやや高い結果でした(ワンステップ35.7% vs. マルチステップ40.5%、P=0.0286)。PGT Day 6の臨床妊娠率もマルチステップ群が高い結果でした(ワンステップ24.0% vs. マルチステップ40.3%、P=0.0215)。継続妊娠率はいずれのサブグループでも有意差を認めませんでした(非PGT Day 5:27.7% vs. 30.9%、P=0.1529、PGT Day 5:41.5% vs. 43.1%、P=0.7350など)。流産率はワンステップ群で全サブグループで低下傾向を示しましたが、統計学的有意差には達しませんでした(非PGT Day 5:21.8% vs. 23.7%、P=0.6163、非PGT Day 6:18.0% vs. 26.7%、P=0.1629)。
ベースライン特性(胚盤胞のグレード、母体年齢)は両群間で有意差を認めず、交絡因子としての影響は否定的でした。
私見
Liebermannらが従来のスクロース含有Vit Kit-Warmを使用していたのに対し、本研究はトレハロース含有のNX版を使用した点で、より新しい試薬による検証となっています。
13分から1分への融解時間短縮は、ラボワークフローの効率化、インキュベーター外での暴露時間短縮、操作者ストレス軽減、再現性向上、緊急時の予備胚への迅速な切替などの実務的利点をもたらします。
著者らも認めているように、後方視的対照群の使用や生児出生率・新生児長期予後データの欠如は本研究の限界であり、今後の前向き検証が望まれます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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