
はじめに
早期妊娠損失には、超音波または組織学的に子宮内胎児死亡が確認される流産、子宮外で妊娠が確認される異所性妊娠(EP)、そしてhCG陽性で妊娠が確認されたものの超音波で可視化される前に損失に至った生化学的妊娠損失が含まれます。
妊娠検査陽性で超音波を行っても子宮内外いずれにも妊娠を確認できない場合はpregnancy of unknown location(PUL)と分類されます。不育症(RM)患者の既往歴において、生化学的妊娠損失やfailed PULといった「非可視化妊娠損失」の意義は十分に検討されていません。今回、非可視化妊娠損失がその後の出生率に影響するかを検討した報告をご紹介いたします。
国内では超音波もまめにみるため、「非可視化妊娠損失」=生化学的流産とおもって読んでも問題ないかと思います。
ポイント
3回以上非可視化妊娠損失もしくは臨床的流産を繰り返した次の妊娠において、非可視化妊娠損失(日本でいう生化学的流産が同等)は1回ごとに出生のRRを約10%低下させ、その影響は臨床流産1回と同等であり、RMの定義に含めることが支持されます。
引用文献
Kolte AM, et al. Hum Reprod. 2014 May;29(5):931-937. doi: 10.1093/humrep/deu042.
論文内容
原因不明不育症女性の既往における非可視化妊娠損失(生化学的妊娠損失とfailed PULを合わせたもの)が、その後の妊娠での出生の可能性と負に関連するかを検討することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
対象は2000年-2010年にコペンハーゲン大学病院Rigshospitaletで診療した587人の不育症女性で、紹介後初回妊娠だけの転帰を499人で解析したretrospective cohort studyです。原因不明不育症は、自然妊娠または配偶者間人工授精後の連続3回以上の臨床流産または非可視化妊娠損失と定義しました(紹介時40歳未満、月経周期整順、子宮形態正常、両親核型正常、ループスアンチコアグラント陰性、IVF/ICSI・提供精子妊娠は除外)。
非可視化妊娠損失は、hCG陽性で確認されたが(施行された場合に)経腟超音波で可視化されなかった妊娠損失と定義し、生化学的妊娠損失(hCG陽性、超音波施行前に損失)とfailed PUL(hCG陽性だが超音波で局在を確定できず)を統合したものです。組み入れ全例が「連続3回以上の妊娠損失」を満たすため、各損失回数は最低3を出発点とします。非可視化妊娠損失および臨床流産の回数をlogitスケール上の線形の連続変数としてrobust Poisson回帰に投入し、negative outcomeのリスク因子(PRM/SRM、年齢、早期・後期流産数、EP、治療)で調整して、1回増えるごとの出生RRを算出しました。
結果
全妊娠は2781、うち22週以降の出生が327(12%)、妊娠損失が2454でした。妊娠損失の内訳は12週未満の臨床流産1426(58%)、生化学的妊娠損失578(23%)、failed PUL 334、後期流産73(3%)、異所性妊娠43(2%、全例手術加療)でした。
非可視化妊娠損失(生化学的妊娠損失+failed PUL=912)は全妊娠損失2454の37%を占めました。全499人での結果は次のとおりです。非可視化妊娠損失は1回あたり出生のRR 0.90(95%CI 0.83; 0.97)で、1回増えるごとに出生確率が約10%低下しました。臨床流産は1回あたりRR 0.87(95%CI 0.80; 0.94、約13%低下)で、両者の低下幅に統計学的有意差はなく、非可視化妊娠損失は臨床流産とほぼ同等の負の影響を持つことが示されました。
つまり、イメージとしては、ある女性の既往が「臨床流産2回+非可視化妊娠損失2回」なら、出生RRへの寄与はおおまかに0.87×0.87×0.90×0.90のように、種類ごとの回数分だけ各係数が掛け合わさる構造です(実際にはlogitスケール上の線形和を指数変換した形)。つまり両タイプを合算した「総損失回数」でもなく、種類別の回数がそれぞれ独立に効くモデルになっています。
非可視化妊娠損失を内訳でみると、生化学的妊娠損失はRR 0.89(95%CI 0.82; 0.97)と有意な低下を示し、failed PULはRR 0.91(95%CI 0.82; 1.02)で同方向ながら有意ではありませんでした。
臨床流産が2回以上ありASRM基準を満たす368人に限った解析でも同様の傾向がみられ、むしろ臨床流産の影響はより大きく、1回あたりRR 0.82(95%CI 0.74; 0.92、約18%低下)、非可視化妊娠損失は1回あたりRR 0.89(95%CI 0.80; 0.98、約11%低下)でした。
年齢は紹介後初回妊娠時年齢1歳あたりRR 0.98(95%CI 0.96; 0.99)と、ほぼ全サブグループで一貫した負の予後因子でした。BMIは499人中312人(63%)で登録され、連続変数でも区分(≤20/21–25/26–29/≥30)でも出生に有意な影響を認めませんでした。原発性不育症(PRM、過去に出産歴のない不育症)の女性を、臨床流産歴の有無で2群に分けて比較しました。すると、臨床流産歴のない女性では既往に手術加療を要した異所性妊娠(EP)を持つ割合が22%だったのに対し、臨床流産歴が1回以上ある女性では6%にとどまり、前者で有意に高い結果でした(差16%、95%CI 9.1%; 28.7%、EP既往のRR 4.0、95%CI 1.92; 8.20)。
IVIg併用群はテンダーラビングケア単独群と比べ出生のRRが1.27(95%CI 1.07; 1.52)と高値でした。なお非可視化妊娠損失の平均妊娠週数は生化学的妊娠損失6.08週、failed PUL 6.59週、臨床流産8.87週でした。
私見
本研究は非可視化妊娠損失の頻度と予後的意義を検討した最初の報告とされ、臨床流産と同等の負の影響を示した点が重要です。
また、原発性不育症で臨床流産歴のない女性に異所性妊娠既往が多いことから、非可視化妊娠損失の一部は自然消退した異所性妊娠である可能性も示唆しています。
日常診療では、不育症初診時の問診で見過ごされがちな生化学的流産既往を予後因子として丁寧に聴取する意義を示す報告と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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