
はじめに
流産は全妊娠の約10~15%に生じ、反復流産(RPL)における早期流産の40~60%は胎児染色体異常に起因します。流産絨毛の染色体分析(POC検査)は、その後の妊娠管理方針を決める重要な情報です。正倍数性(正常核型)流産では、抗リン脂質抗体、子宮形態異常、代謝疾患、甲状腺機能異常、子宮内・頸管細菌叢異常、肥満などの母体因子の精査が必要となります。従来のG分染法には母体細胞混入や培養失敗の限界があり、近年はNGSが導入されています。今回、NGSで確定した正倍数性早期流産の臨床・超音波所見の特徴を検討した報告をご紹介します。
ポイント
正倍数性流産は胎児心拍・卵黄囊確認前に多く、CRLが大きく、2回以上の生化学的流産歴と関連しますが、これら臨床所見の診断的価値は限定的です。
引用文献
Kubota Y, et al. Reprod Med Biol. 2026;25:e70053. doi: 10.1002/rmb2.70053.
論文内容
2021年1月~2025年5月の早期流産(12週未満)で絨毛染色体検査を選択し、NGS解析を受けた117例を後方視的に解析。絨毛を脱落膜から分離・洗浄し約1cm片に密封・凍結(≤−18℃)保存のうえ、「OVUS POC解析システム」でコピー数(CNV)ベースに解析。正常核型(正倍数性、n=47)群と異常核型(異数性、n=70)群を比較しました。
核型別の臨床所見(各群内での割合)
| 臨床所見 | 正倍数性(n=47) | 異数性(n=70) | p | どちらに多いか |
|---|---|---|---|---|
| 心拍確認前に流産 | 24(51.1%) | 11(15.7%) | 0.0001 | 正倍数性 |
| うち卵黄囊確認前に流産 | 14(29.8%) | 0(0%) | <0.0001 | 正倍数性(異数性は皆無) |
| SCH(絨毛膜下血腫)あり | 8(17.0%) | 3(4.2%) | 0.0241 | 正倍数性 |
| 心拍確認後のCRL(平均±SD) | 15.3±8.2mm | 11.8±6.8mm | 0.037 | 正倍数性が大きい |
正倍数性流産は、心拍・卵黄囊が確認される前という超早期に多く生じます。とくに卵黄囊確認前の流産は正倍数性群に14例あった一方、異数性群はゼロでした。一方、心拍確認後まで育って流産した胚に限ると、正倍数性のほうがCRLが大きく(より長く発育してから停止)、またSCHを伴う頻度も正倍数性で高い結果でした。
CRLの大きさ別にみた核型の分布
心拍確認後(=CRLが測定できた症例)を大きさで5区分し、各区分が各群(正倍数性47例・異数性70例)に占める割合を示したものです。実数のうち心拍確認前と後半合計は確定値、CRL各区分はグラフ目視からの数値としています。
| 流産時の状態 | 週数目安 | 正倍数性 | 異数性 | 優勢/有意差 |
|---|---|---|---|---|
| 心拍確認前 | ― | 24(51%) | 11(16%) | 正倍数性 ****p<0.0001 |
| CRL <10mm | 約6週 | 約6(13%) | 約24(34%) | 異数性 **p<0.01 |
| CRL 10–16mm | 約7週 | 約4(9%) | 約17(24%) | 異数性 **p<0.01 |
| CRL 16–24mm | 約8週 | 約10(21%) | 約17(24%) | ほぼ同等 ns |
| CRL 24–30mm | 約9週 | 約2(4%) | 約1(1%) | ほぼ同等 ns |
| CRL 30–41mm | 約10週 | 約1(2%) | 約0(0%) | ほぼ同等 ns |
CRL区分ごとの傾向は次のように読めます。異数性流産はCRL<10mm(約6週)を中心とする単峰性で、小さいうちに停止する胚が大半です。CRLが10~16mm(約7週)まではなお異数性が有意に多く、ここまでが「異数性が優位な領域」です。これに対し正倍数性流産は、心拍確認前という超早期に大きな第一の山を持ち、いったん減ったのちCRL16~24mm(約8週)で第二の山を作る二峰性を示します。そしてCRLが16mmを超えると両群の差は消失します(ns)。
臨床・超音波所見には核型を推定する一定の傾向があるものの、診断的価値は限定的と結論されています。
子宮内細菌叢(探索的解析、n=18)
正倍数性47例のうち、患者希望で内膜細菌叢を解析できた18例(LDM 11例/NLDM 7例)を検討しています。NLDM(非ラクトバチルス優位=ディスバイオーシス)の7例中6例が卵黄囊確認前の超早期流産で、LDM群より有意に偏っていました(85.7% vs. 18.2%、p=0.009)。著者らはこれを、内膜ディスバイオーシスが正倍数性流産の母体リスク因子となりうる可能性として解釈しています。ただし採取は流産後の第2~第3月経周期・黄体期中期であり、当該流産周期の環境ではないため、NLDMが流産の原因か結果かは区別できず、小標本かつ正常核型例のみという制約から、所見は仮説生成にとどまります。
私見
この論文の解釈の気になるところです。
第一に母体細胞混入。超早期ほど絨毛が乏しく母体DNAに引きずられ偽46,XXとなりうる懸念があります。ここがわかってくるといいなーと思います。またNGSでは構造異常はわかりません。
第二に内膜細菌叢の因果方向。
採取が流産2~3周期後のため、NLDMが流産の原因か結果(処置・炎症の残存)かを区別できません。不育症の治療指針2025では慢性子宮内膜炎とマイクロバイオームは研究的検査となっています。
診断・カウンセリングは慎重にしながらも、治療経過をみながら行間を補填していくうえで参考になる報告でした。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。