体外受精

2021.04.24

凍結融解胚移植による周産期合併症について(Fertil Steril. 2020)

はじめに

凍結融解胚移植は技術の進歩とともに過去10年間で急速に増加しており、単一胚移植の実施、卵巣過剰刺激症候群の低減、着床前遺伝学的検査の実施などの利点があります。しかし凍結融解胚移植は妊娠高血圧症候群のリスク増加と関連していることが複数の研究で示されています。最近の研究により黄体の不在がこのリスク増加の一因である可能性が示唆されており、本論文では黄体の有無が周産期予後に与える影響についてのレビューをご紹介いたします。

ポイント

ホルモン調整周期での凍結融解胚移植では黄体が欠如しており、relaxinやVEGFなどの血管作動性物質が補充されないため、妊娠高血圧症候群、産後出血、巨大児、過期産などの周産期合併症リスクが増加する可能性があります。

引用文献

Bhuchitra Singh, et al. Fertil Steril. 2020 Feb;113(2):252-257. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.007.

論文内容

多くの研究が凍結融解胚移植に伴う妊娠高血圧症候群のリスク増加を報告しています。Roqueらのメタアナリシスでは5,379例を含む11研究で、選択的凍結融解胚移植は新鮮胚移植と比較してリスク増加を示し(RR 1.12, 95%CI 1.01-1.24)、子癇前症のRRは1.79(95%CI 1.03-3.09)でした。黄体が欠如すると妊娠高血圧症候群のリスクが増加する可能性がある理由として、黄体はE2とPだけでなくrelaxin、VEGF、エストロゲンの血管新生代謝産物などの血管作動性物質も産生し、これらは初期胎盤形成に重要であると仮説されています。ホルモン調整周期ではこれらが補充されないため血管作動性物質の欠乏が生じます。
Relaxinはヒト妊娠中に黄体のみから分泌され、強力な血管拡張作用を持ちます。妊娠ラットモデルでrelaxin中和抗体を投与すると、糸球体濾過率と有効腎血漿流量の妊娠性増加が完全に抑制されました。動脈コンプライアンスの増加は正常なヒト妊娠における主要な生理学的適応です。フロリダ大学の研究では黄体なし群で妊娠初期における脈波伝播速度の予想される低下が減弱していました。スタンフォード大学での研究では、黄体が欠如した女性は平均動脈血圧の予想される低下が認められず、反応性充血指数が低く、循環内皮前駆細胞数が低下していました。

前向きコホート研究では、黄体が欠如したホルモン調整周期での凍結融解胚移植は、修正自然周期と比較して子癇前症(12.8% vs 3.9%; P=0.02)および重症妊娠高血圧腎症 (9.6% vs 0.8%; P=0.002)の発生率が高くなりました。黄体の欠如は妊娠高血圧腎症 (調整OR 2.73, 95%CI 1.14-6.49)および重症妊娠高血圧腎症 (OR 6.45, 95%CI 1.94-25.09)の予測因子でした。スウェーデンの大規模研究では、自家卵子による単胎妊娠において凍結融解胚移植後の妊娠高血圧腎症発生率は新鮮胚移植より高くなりました(7.51% vs 4.29%, 調整OR 2.17, 95%CI 1.67-2.82)。日本のSaitoらの研究では、ホルモン調整周期で妊娠高血圧症候群(調整OR 1.43, 95%CI 1.14-1.80)および癒着胎盤(調整OR 6.91, 95%CI 2.87-16.66)のオッズが増加しました。
Shaらによるメタアナリシスでは、凍結融解胚移植による妊娠は新鮮胚移植と比較して妊娠高血圧症候群(RR 1.44, 95%CI 1.16-1.78)、産後出血(RR 1.28, 95%CI 1.14-1.44)、large for gestational age(RR 1.58, 95%CI 1.31-1.90)のリスクが増加しました。最新の観察データでは、自然周期と比較して特にホルモン調整周期での凍結融解胚移植で妊娠高血圧症候群、産後出血、過期産、巨大児の発生率が高いことが示されています。

私見

臨床現場ではホルモン調整周期の利便性が高く評価されていますが、周産期合併症のリスクを考慮すると適応を慎重に検討する必要があります。特に妊娠高血圧症候群のハイリスク患者では修正自然周期や刺激周期の選択を優先的に考慮すべきかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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