不育症

2021.12.13

不育症予防のためのEBMに基づいた介入(Lancet. 2021)

はじめに

不育症について2026年現在一番綺麗にまとまっているのはLancet 2021の総説です。
国内でも不育症の提言2025が発刊されています。
Lancet 2021の総説に記載されている不育症予防のためのEBMに基づいた介入をご紹介いたします。 

ポイント

反復流産予防として、プロゲステロン投与が中等度の質の根拠で推奨されています。抗リン脂質抗体陽性患者へのアスピリン+ヘパリン併用療法、TSH 4.0mIU/L以上の潜在性甲状腺機能低下症へのレボチロキシン投与には低い質の根拠があります。その他の介入は現時点で推奨されていません。 

引用文献

Arri Coomarasamy, et al. Lancet. 2021. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00681-4 

論文内容

流産リスクが高い女性(反復流産・不育症・習慣流産)における流産予防として、さまざまな介入がなされています。主な介入としてプロゲステロン、抗凝固剤、レボチロキシン、メトホルミン、hCG、免疫療法、微量栄養素補給、PGT-Aが議論されています。現在のところ、流産リスクが高い女性における流産予防に、エビデンス高く推奨できる治療はありません。プロゲステロン投与が反復流産患者の出生率を増加させることを示す中等度の質の根拠、レボチロキシンが甲状腺機能低下症(TSH濃度が4.0mIU/L以上)の女性の流産リスクを低下させるという低い質の根拠があります。
抗リン脂質抗体陽性の反復流産女性において、アスピリン+ヘパリン併用療法が出産率を高めるという低い質の根拠にとどまっています。

①プロゲステロン
唯一、中等度の質の根拠があります。
流産歴がある妊娠初期の性器出血には黄体ホルモン腟剤(BMJ. 2021) 
妊娠初期に出血した女性の流産予防(Lancet. 2021) 

②抗凝固療法
後天性凝固異常(例:抗リン脂質抗体など)または先天性凝固異常(例:第V因子ライデン変異)の血栓素因は、深部静脈血栓症や反復流産などと関連します。低用量アスピリン、ヘパリン、その併用する抗凝固療法は4つのシステマティックレビューで評価されています。抗リン脂質抗体症候群で反復流産女性において、低用量アスピリン+ヘパリン併用療法は低用量アスピリン単独と比較して流産率を低下させ(RR 0.48、95%CI 0.32-0.71、低い質の根拠)、出生率を増加させます(RR 1.27、1.09-1.49、低い質の根拠)。
先天性凝固異常の女性や血栓症がない女性への低用量アスピリン+ヘパリン併用療法を支持する根拠はありません。血栓症がない女性の場合、低用量アスピリン療法が流産リスクを高める可能性を示唆する論文もあるので、ルーチンや経験的使用を避けることを勧めています(Zhang T, et al. Medicine. 2015)。 

③レボチロキシン
妊娠前および妊娠中の明らかな甲状腺疾患の治療は、流産などを減少させるため一般的に認知されていますが、潜在性甲状腺機能低下症が流産に関係しているという根拠も複数あったり、甲状腺機能異常がない甲状腺自己抗体陽性の女性でも流産のリスク因子となったりすることがわかっています。
現在のところ、妊娠前のTSH濃度4.0mIU/L以上の潜在性甲状腺機能低下症に対してはレボチロキシン治療が有効であるとされています(低い質の根拠)。
妊娠前のTSH濃度2.5〜4.0mIU/Lの流産との関連性は更なる研究が必要とされています。
甲状腺抗体陽性だけれど甲状腺機能が正常な女性に対するレボチロキシン投与の流産減少への有益性は認められていません。 

④メトホルミン
インスリン抵抗性を認め高インスリン血症状態であるPCOS女性に対するメトホルミン治療は妊娠予後を改善できる可能性があります。
4つの小規模で質の低い研究のシステマティックレビューでは、メトホルミンによる流産率には差がありませんでしたが出生率向上を認めています。
メトホルミンを妊娠初期に開始するPregMet2試験のデータを含む個々の患者データのメタ解析では、メトホルミン群では397人中18人(5%)が後期流産であったのに対し、プラセボ群では399人中40人(10%)が後期流産でした(RR 0.43; 95%CI 0.23-0.79; p=0.004)。 

⑤ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG投与)
hCGはプロゲステロン産生および胚着床に重要です。反復流産女性を対象としたhCG治療に関する5つのランダム化比較試験のシステマティックレビューでは、流産の減少を認めています(RR 0.51; 95%CI 0.32-0.81)。このシステマティックレビューには質が低い論文が2本含まれているので現在のところ推奨事項とは考えられていません。 

⑥免疫療法
免疫調節の機能障害が流産の原因であると考えられています。ナチュラルキラー細胞濃度の上昇、異常サイトカイン、抗リン脂質抗体やその他の自己抗体の存在など、さまざまな免疫学的マーカーが流産と関連しています。
3つのシステマティックレビューでは、プレドニゾロンの経口投与、免疫グロブリンの静脈内投与、リンパ球免疫療法、trophoblast membrane免疫療法などの免疫学的介入が評価されていますが、いずれも流産の減少や出生数の増加とは関連していませんでした。 

⑦微量栄養素
ビタミンは代謝や生殖機能において必要な必須栄養素であり、特に抗酸化作用のあるビタミンは、流産リスクを低減する手段として研究されています。
3つのシステマティックレビューでは、ビタミンA、C、E、葉酸、鉄などの微量栄養素の流産抑制効果が評価されていますが、いずれの方法も流産のリスクを減少させるという根拠はありませんでした。 

⑧子宮奇形に対する外科的介入
子宮異常の外科的治療(特に子宮中隔)は議論の対象となっていて現在ランダム化試験が実施されています(TRUST試験)。いまのところ、結論は出ていません。 

⑨着床前遺伝学的検査
2つのシステマティックレビューでは、反復流産の女性を対象としたPGT-Aが検討されています。現在のところ、支持する論文がまだまだ少ない状況です。 

私見

流産を繰り返している患者を対面すると、「できることは全部やる!」という気持ちに臨床医としては至ってしまいます。それが医療として正しいかどうか、いつも現在の根拠とその後の最新知見と照らし合わせ、患者様との個別化医療を検討する必要があります。治療提供することだけが正義ではなく意思決定支援をするうえで、根拠がないものに対しては既に否定されていることか、今後の検討課題なのかを見据えて情報提供する必要があると思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# アスピリン、ヘパリン

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 不育症(RPL)

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

不育症患者における正倍数性胚盤胞3回連続移植後の累積出生率(Fertil Steril. 2026)

2026.08.20

反復流産におけるMycoplasma・Ureaplasma感染と治療による妊娠予後(Fertil Steril. 2025)

2026.07.24

妊娠高血圧腎症予防におけるアスピリン162mgと81mgの比較(Obstet Gynecol. 2026)

2026.02.24

カルシニューリン阻害薬による習慣流産・反復着床不全への効果(J Reprod Immunol. 2023)

2025.10.24

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

不育症の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

流産した後、次の妊娠までどれくらい期間を開けた方がよいの?( Obstet Gynecol. 2016)

2020.11.17

妊娠初期に出血した女性の流産予防(Lancet. 2021)

2021.10.11

既往死産女性におけるその後の妊娠での死産リスク(Obstet Gynecol. 2022)

2026.08.21

Th1/Th2比測定は不妊治療に意味があるの?(Am J Reprod Immunol. 2021)

2021.06.25

妊娠前・中ストレスと流産率の前向きコホート研究(Hum Reprod. 2026)

2026.05.19

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08