体外受精

2022.03.07

胚評価システム(iDAScore)と出生率・新生児予後の相関分析(J Assist Reprod Genet. 2022)

はじめに

近年、体外受精領域では人工知能(AI)技術が急速に進歩し、胚選択における客観的評価法として注目されています。従来のGardner基準による形態学的評価は主観的であり、観察者間・観察者内変動の問題が指摘されてきました。iDAScore v1.0(Vitrolife社)は、ディープラーニングモデルに基づく注釈不要の胚評価システムで、タイムラプス画像シーケンスを用いて胚の妊娠予後を予測します。単一凍結融解胚盤胞移植(SVBT)後のiDAScoreと出生率および新生児予後との相関を大規模後ろ向きコホート研究をご紹介いたします。 

ポイント

iDAScoreは移植あたりの妊娠陽性(胎児心拍)予測だけでなく、流産率の減少および出生率の増加と有意に相関し、新生児予後への悪影響は認められないことが示されました。 

引用文献

Satoshi Ueno, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Jul 26;39(9):2089-2099. doi: 10.1007/s10815-022-02562-5. 

論文内容

2019年1月から2020年5月まで、単一施設で単一凍結融解胚盤胞移植を実施した3,010症例(1患者1周期)を対象とした後ろ向きコホート研究です。着床前遺伝学的検査(PGT)症例は除外されました。評価はiDAScore v1.0(Vitrolife Technology Hub)を用いて実施し、トレンド解析および多変量ロジスティック回帰分析により、iDAScoreと出生率(妊娠22週以降の分娩)、総流産率(1期・2期流産を含む)との相関を解析しました。さらに752例の単胎分娩における新生児予後についても検討しました。 

結果

iDAScoreの低下に伴い出生率は有意に低下し(P<0.05)、総流産率は逆に増加する傾向が認められました。多変量ロジスティック回帰分析では、iDAScoreは出生率の増加(調整OR:1.811、95%CI:1.666-1.976、P<0.05)および総流産率の減少(調整OR:0.799、95%CI:0.706-0.905、P<0.05)と有意に相関していました。iDAScoreを四分位に分けた解析では、最高スコア群(9.9-9.3)の出生率は43.1%であったのに対し、最低スコア群(7.2-1.0)では9.3%でした。AUC(area under the curve)による判別能力の評価では、全体で0.700、年齢別では35歳未満群0.705、35-37歳群0.681、38-40歳群0.654、41-42歳群0.694、43歳以上群0.771でした。新生児予後については、先天性奇形率、性別、妊娠期間、出生体重、SGA(small for gestational age)およびLGA(large for gestational age)率に有意差は認められませんでした。多変量ロジスティック回帰分析においても、母体年齢、父体年齢、母体BMI、分娩歴、喫煙、帝王切開の有無を調整因子として含めた解析で、新生児特性に有意差は認められませんでした。 

私見

本研究は、AI基盤の胚評価システムであるiDAScoreが胎児心拍のみならず出生率まで予測可能であることを示した重要な報告です。従来の胚評価法では、胚盤胞の形態学的評価(Gardner基準)や胚の発育動態(morphokinetics)による評価が主流でしたが、これらは主観的で観察者間変動が問題となっていました(Storr A, et al. Hum Reprod. 2017)。 
iDAScoreの優位性は、完全に客観的で注釈不要の評価システムである点にあります。Khosravi P, et al.(npj Digit Med. 2019)やTran D, et al.(Hum Reprod. 2019)など複数の研究でAI技術の胚選択への応用が報告されていますが、多くは胎児心拍を endpoint としており、出生率を検証した大規模研究は限られていました。 
新生児予後への影響については、従来の研究では胚盤胞の形態学的特徴と性比や出生体重との関連が報告されていました(Alfarawati S, et al. Fertil Steril. 2011)。しかし本研究では、iDAScoreと新生児予後との間に有意な相関は認められず、AI選択による周産期への悪影響がないことが示されました。これは、iDAScoreがタイムラプス画像全体を通じた客観的評価を行っているためと考えられます。 

一方で、本研究の限界として、最小刺激・自然周期IVFによる凍結胚移植のみが対象となっている点があります。新鮮胚移植や一般的な調節卵巣刺激での検証が今後必要です。また、iDAScoreの判別能力は年齢群により異なり、38-40歳群で最も低く(AUC 0.654)、43歳以上群で最も高い(AUC 0.771)という興味深い結果が得られています。これは利用可能胚の質の均一性の違いによるものと推察されます。 
AI技術の発展により、胚選択はより客観的で一貫性のある評価が可能となりつつありますが、最終的な選択決定は医師や胚培養士による総合的判断が重要であることに変わりありません。iDAScoreは有用な補助ツールとして位置づけられるべきであり、従来の形態学的評価と併用することで、より精度の高い胚選択が可能になると考えられます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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