体外受精

2022.08.18

胚評価システム(iDAScore)と胚形態動態の関連(Reprod Biomed Online. 2022)

はじめに

生殖補助医療において人工知能(AI)を用いた胚評価システムの導入が進んでいます。タイムラプス培養システムの普及により、着床前胚発育の連続観察が可能となり、これらの形態動態パラメーターを用いた胚選択モデルが開発されています。深層学習ベースの自動スコアリングシステムであるiDAScoreは妊娠予後予測に優れた性能を示していますが、その評価基準は「ブラックボックス」として不透明な部分が残されていました。今回、iDAScore v1.0と胚の形態動態および形態学的変化との関連を詳細に解析した報告をご紹介いたします。

ポイント

iDAScoreは胚の形態動態および形態学的変化(特にコンパクション期から胚盤胞期)と有意に関連しており、深層学習モデルベースの胚選択において患者に対する説得力のある説明を提供することが可能です。 

引用文献

Kenji Ezoe, et al. Reprod Biomed Online. 2022 Dec;45(6):1124-1132. doi: 10.1016/j.rbmo.2022.08.098. 

論文内容

深層学習ベースのスコアリングシステムであるiDAScoreと着床前期の生物学的事象との関連を調査することを目的としたレトロスペクティブ観察研究です。2019年10月から2020年12月に、クエン酸クロミフェンベースの最小刺激周期で採卵を受け、拡張胚盤胞まで発育した925人の患者を対象としました。受精、分割期、コンパクション期、胚盤胞期における形態動態および形態学的変化とiDAScoreとの関連を解析しました。 

結果

細胞質ハロの持続時間は低スコア胚盤胞で有意に延長していました(P < 0.0001)。雌雄前核破綻のタイミングは、高スコア胚盤胞と比較して低スコア胚盤胞で有意に遅延していました(いずれもP < 0.0001)。三分割、多分割、急速分割、逆分割、または非対称分割を示す受精胚は、正常分割の受精胚よりも低いスコアを示しました(P < 0.0001–0.0098)。培養2日目および3日目の細胞数と割球フラグメンテーション量はiDAScoreと有意に関連していました(P < 0.0001–0.0008)。低スコア受精胚ではコンパクション、胚盤胞形成、胚盤胞拡張の遅延が観察されました(すべてP < 0.0001)。受精胚コンパクション時の割球除外および排出の発生率は、高スコア受精胚と比較して低スコア受精胚で有意に高くなっていました(いずれもP ≤ 0.0001)。胚盤胞形態はiDAScoreと有意に関連していました(P < 0.0001)。重回帰分析により、胚盤胞期への変換期における形態動態および形態学的事象がiDAScoreと強く関連することが明らかになりました(P < 0.0001–0.0116)。 

私見

この研究の最大の強みは、iDAScoreのトレーニングデータに画像を提供した国内施設による検証であることです。これにより人種差の影響を最小限に抑えた解析が可能となっています。従来の胚評価法で重要視されてきた細胞質ハロー持続時間、前核破綻タイミング、異常分割パターン、フラグメンテーション率、コンパクション動態などの各種パラメーターが、AIスコアリングシステムでも適切に評価されていることが確認されました。 
先行研究においても、細胞質ハロ延長は胚質低下と関連する(Coticchio et al. Hum Reprod, 2018)、前核破綻遅延は着床率・出生率低下と相関する(Azzarello et al. Hum Reprod, 2012)、異常分割パターンは妊娠予後不良と関連する(Meseguer et al. Hum Reprod, 2011)といった報告がありますが、今回の結果はこれらの知見と一致しています。 
一方で、この施設がiDAScore開発過程で大量の胚画像を提供していたため、このクリニックの評価基準が強く反映されている可能性も考慮する必要があります。また、最小刺激周期のみでの解析であるため、他の刺激法での再現性についても今後の検討が必要です。深層学習モデルの解釈可能性向上は重要な課題であり、このような検証研究は患者への適切な説明のために不可欠です。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 受精卵の評価

# タイムラプス

# 基礎研究

# AI・統計的手法

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

移植前情報(体外受精)に関連するタグ

# 手術

# 生活習慣

# 胚盤胞

# 周産期合併症

# インスリン抵抗性、HOMA

# 精子DNA損傷検査

# 培養液

# 出生児予後

# 異所性妊娠

# タイムラプス

# 媒精(IVF)

# 基礎研究

# 黄体補充

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# ビタミン

# 新鮮胚移植

# がんと生殖医療

# 胎盤異常

# 不育症(RPL)

# ドナー・サロゲート

# クロミフェン、AIなど

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# ホルモン調整周期下胚移植

# 初期胚移植

# 顕微授精(ICSI)

# 低刺激排卵誘発法

# 慢性子宮内膜炎

# ハイリスク妊娠

# サプリメント

# 帝王切開

# メトホルミン

# 凍結融解胚移植

# 細菌性膣症

# 帝王切開瘢痕症候群

# ラクトバチルス

# 年齢素因

# 多胎

# 子宮内細菌叢検査

# 凍結受精卵

# 卵子の評価

# 精液所見

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜ポリープ

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 卵巣刺激

# マーカー・遺伝子

# hCG

# 子宮内膜厚、形態

# 妊娠糖尿病

# 良性腫瘍

# 卵巣予備能、AMH

# LUF

# 子宮内膜症

# 妊娠高血圧症候群

# ロング法、ショート法

# 総説、RCT、メタアナリシス

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 子宮形態異常

# 反復着床不全(RIF)

# 体重、BMI

# 費用対効果

# 子宮鏡

# 受精卵の評価

# 排卵周期下胚移植

# 胚質評価

# AI・統計的手法

# 流産、死産

# 染色体

# 排卵誘発、トリガー

# 予防介入

# 疫学研究・データベース

あわせて読みたい記事

PGT-Aは誰に実施されている?米国リアルワールドデータ(Hum Reprod Open. 2026)

2026.09.21

Nugent scoreは子宮内膜の細菌叢を反映する?(当院関連論文:Front Endocrinol. 2026)

2026.09.17

初回体外受精前の子宮鏡検査は出生率を改善する?inSIGHT試験(Lancet. 2016)

2026.07.13

既往帝王切開が体外受精治療成績に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.07.03

精子DNA断片化はPGT-Aの結果に影響するのか?―胚染色体の正倍数性と男性因子の新たな視点 (Eur J Med Res、2025)

2026.05.02

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08