体外受精

2021.10.25

正倍数性胚と思われた異常受精1PN胚からの胞状奇胎(F S Rep. 2021)

はじめに

正常受精して正倍数性だった受精胚でも一定数しか妊娠しません。今回ご紹介する論文は、異常受精胚(1PN)から胚盤胞になり着床前診断を実施し46,XXだったので移植したら胞状奇胎になってしまった症例報告です。

ポイント

1PN胚由来の胚盤胞が着床前診断で46,XXと判定されても、精子由来の片親発生により胞状奇胎となる可能性があります。異常受精胚の染色体検査では、SNPs解析やSTR解析による詳細な親由来の確認が必要です。

引用文献

Beth Zhou, et al. F S Rep. 2021. DOI: 10.1016/j.xfre.2021.01.003

論文内容

卵巣予備能低下、軽度男性因子がある3妊0産の42歳の女性。
卵巣刺激を行い、採卵数10個、成熟卵10個に対して顕微授精を行い、胚盤胞を6個(2PN胚5個、1PN胚1個)凍結しました。これらにNGS法による着床前検査を実施したところ、正倍数性胚は1個(46,XX、1PN胚)でした。この胚を移植し妊娠成立しましたが、結果的に全胞状奇胎(精子由来の片親性ダイソミー⇨精子由来の片親発生)でした。

結果

両親のどちら由来の染色体であるか判断がつかない場合(異常受精胚の46,XXなど)、着床前診断をより詳しく行うSNPs解析もしくはSTR解析を行う選択肢も考慮しなくてはいけないかもしれません。SNPs解析はリファレンスデータから解析するため、その検体そのものから解析可能ですが、STR解析は両親どちらかのDNAが必要になります。

私見

異常受精胚(abnormally fertilized oocyte (AFO胚))で胚盤胞に育った場合、唯一の貴重な胚盤胞だったら移植するべきでしょうか。様々な見解があります。
患者のために思って行った結果が不利益につながることもあります。
Itoiらは1PN胚で着床前検査は行わず、正常分娩に至っている複数例の症例を報告しています。
私たちも患者様の同意のうえで移植し分娩に至った症例が複数例あります。反対に顕微授精後に正常受精を確認しているのに胞状奇胎となった症例も経験しています。
臨床を行えば行うほど希少疾患に出遭いますし、その度に過去の事例から学ぶことが多くあります。日々勉強を重ねると共に、私たちが経験した希少疾患も論文にまとめることが後人の道標になることをわかりながらも、時間がないことを言い訳にできていない日々に猛省の所存です。

胞状奇胎について
Human Fertility and Embryology Authorityが2019年にまとめたところ、1991年から2018年の間、体外受精の胞状奇胎の発生率は0.02%(1/4,300)でした。胞状奇胎の再発リスクですが、1回の既往なら1%–2%、2回の既往なら15%–17%とされています。つまり偶然ではなく発生率が高い女性がいるということがわかります。
Nguyenらは完全胞状奇胎の変異を解明するために、再発完全胞状奇胎の65名の女性に対して全ゲノム配列決定を試み、減数分裂時に関連する遺伝子MEI1、TOP6BL/C11orf80、REC114に変異を同定しました。Mei1欠損マウスの卵子を観察すると、一部の卵子では第一極体放出時に染色体をすべて第一極体に放出してしまう現象が起こっていることがわかりました。単為発生はこのように発生しているのでしょうが、なかなか臨床では判断することができませんね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 染色体

# 前核(0PN、1PN、2PN、3PN)

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 胚盤胞

# 胚質評価

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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