体外受精

2020.11.26

慢性子宮内膜炎とERA®結果は関係する?( Immun Inflamm Dis. 2020)

はじめに

着床には、発生能を有する受精胚と適切に脱落膜化した子宮内膜の同期が不可欠です。子宮内膜受容能検査(ERA)は、着床期遺伝子の発現プロファイルから個別の着床ウィンドウ(WOI)を客観的に同定する検査として開発されました。一方、慢性子宮内膜炎(CE)は反復着床不全(RIF)女性の30〜60%に認められ、抗菌薬治療による治癒で妊娠予後が改善することが報告されています。in vitro研究ではCEが子宮内膜の脱落膜化を障害することが示唆されていますが、CEがERA結果に及ぼす臨床的影響は報告されていませんでした。今回、CEとERA結果およびERAに基づく個別化胚移植の妊娠予後との関連を検討した単施設横断研究をご紹介いたします。

ポイント

CEはWOIを変位させてERAの「receptive」率を低下させるため、ERA施行前にCEの診断と治療を行うべきです。

引用文献

Kuroda K, et al. Immun Inflamm Dis. 2020 Dec;8(4):650-658. doi: 10.1002/iid3.354.

論文内容

CEと個別化WOIおよびERAに基づく胚移植後の妊娠予後との関連を評価することを目的とした、単施設横断研究です。2018年6月から2020年2月にERA検査を受けた不妊女性101名のうち、ERA検査と形質細胞マーカーCD138免疫染色を3か月以内に施行した88名を対象としました。子宮鏡で子宮内腔病変を有する症例は除外しています。CEは10視野(×400倍)の非重複間質領域においてCD138陽性形質細胞5個以上と定義しました。対象は、CEを認めない群(non-CE群、n=33)、ERA検査時にCEが未治療であった群(CE群、n=19)、ERA検査前にCEが治癒していた群(cured-CE群、n=36)の3群に分類しました。CE治療はドキシサイクリン100mg×2回/日×2週間を一次治療とし、効果不十分例ではアモキシシリン+アジスロマイシン+メトロニダゾール+耐性乳酸菌の併用、無効例では子宮内膜搔爬を実施しました。妊娠予後は少なくとも1回胚移植を行った74名(non-CE群27名、CE群18名、cured-CE群29名)で評価し、ERA結果に基づく個別化胚移植をホルモン調整周期下で実施しました。

結果

3群間で年齢、不妊期間、妊娠歴、不妊原因、血清AMH値、過去の胚移植回数に有意差は認めませんでした。約半数がRIF症例でした。CD138陽性形質細胞数はnon-CE群、CE群、cured-CE群でそれぞれ0.7±1.0、28.5±30.4、1.3±1.3個であり、3群間で有意差を認めました(P<.001)。ERA結果でreceptiveと判定された割合は、non-CE群57.6%(19/33名)、cured-CE群50.0%(18/36名)に対し、CE群では15.8%(3/19名)と有意に低値でした(P=.009)。CE群では非受容期(non-receptive)のうちlate receptive(P+4.5)が36.8%、post-receptive(P+4)が15.8%と、WOIが前方にずれている傾向が認められました。CE群で2回ERAを施行した3名のうち2名は、抗菌薬治療後にreceptive endometriaに改善しました。CE治療後の最初の個別化胚移植における臨床妊娠率は、non-CE群77.8%(21/27周期)、CE群22.2%(4/18周期)、cured-CE群51.7%(15/29周期)であり有意差を認めました(P<.001)。2回の胚移植までの累積継続妊娠率はnon-CE群85.2%(23/27名)、CE群30.8%(4/13名)、cured-CE群78.3%(18/23名)でした(P=.002)。CE群はCE治癒後に胚移植を行ったにもかかわらず、cured-CE群やnon-CE群と比較して妊娠予後が不良でした。

私見

私たちも臨床で論文の結果と同じ印象を持っています。

興味深いのは、CE群で予測された「WOIの後方シフト」ではなく、late receptiveやpost-receptiveといった「前方シフト」が62.5%(10/16例)に認められた点です。著者らは着床に伴う一過性炎症反応の存在(Chard T, Hum Reprod Update. 1995;Sharkey A, Rev Reprod. 1998;Kelly RW, et al. Reproduction. 2001など)を考慮し、CEによる炎症性遺伝子発現がERAで「より早期のWOI」と誤判定される可能性を示唆しています。一方、ERAのRIFに対する有効性自体には議論があり(Hashimoto T, et al. Reprod Med Biol. 2017;Tan J, et al. J Assist Reprod Genet. 2018;Neves AR, et al. J Assist Reprod Genet. 2019;Bassil R, et al. J Assist Reprod Genet. 2018)、CE未治療の状態で得られたERA結果に基づく個別化胚移植では妊娠予後が不良であった本研究結果は、ERA前のCEスクリーニングと治療の重要性を強く示しています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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