
はじめに
子宮の運動性は子宮内膜直下の筋層(接合帯:junctional zone, JZ)に由来する子宮内膜波動(endometrial waves: EW)によって特徴づけられ、卵胞期には増加するエストロゲンの影響で収縮が亢進し、黄体期にはプロゲステロンの作用で収縮活動が低下します。慢性子宮内膜炎(chronic endometritis: CE)は子宮内膜の慢性炎症性疾患であり、症状が乏しいながらも反復流産、原因不明不妊、反復着床不全(RIF)との関連が指摘されています。腸管や膀胱などの管腔臓器では慢性炎症が収縮性を変化させることが知られており、CEが子宮収縮にも影響を与える可能性があります。今回、CE女性における排卵期および黄体中期のEWパターンを評価した症例対照研究をご紹介いたします。
ポイント
CE女性では排卵期および黄体中期のEWパターンが対照群と有意に異なり、子宮収縮異常がCEに関連する症状や不妊・着床不全の機序の一つとなる可能性があります。
引用文献
Pinto V, et al. Fertil Steril. 2015 Apr;103(4):1049-52. doi: 10.1016/j.fertnstert.2015.01.007.
論文内容
慢性子宮内膜炎(CE)女性における排卵期および黄体中期の子宮内膜下筋層由来の子宮内膜波動(EW)の変化を評価することを目的とした症例対照研究です。
子宮鏡検査に紹介されCEと診断された45名を対象としました。子宮鏡の適応は不妊42.3%、反復流産35.5%、異常子宮出血22.2%でした。対照群はCEの所見がない年齢適合女性45名(不妊56.3%、反復流産15.5%、異常子宮出血28.2%)でした。両群とも少なくとも2か月間ホルモン剤・薬剤を使用しておらず、非喫煙者でアルコール常飲者ではなく、TVSで子宮・付属器病変を認めず、骨盤内手術歴もありませんでした。CEの子宮鏡診断は間質浮腫、限局性または広汎性発赤、マイクロポリープの存在に基づき、組織学的には形質細胞優位の間質浸潤と間質の「紡錘形細胞」変化により確定しました。治療開始前かつ子宮鏡施行後3か月以内に、同一周期の排卵期(11–14日)および黄体中期(19–22日)にTVSを施行しました。7.5MHz経腟プローブ(Aloka Alfa-10)を用い、矢状断で3分間子宮を撮影しデジタル記録しました。EWの方向と頻度は別の評価者が盲検下で4–8倍速の動画として動画編集ソフトウェア(Windows Movie Maker)でオフライン解析し、van Gestelらの分類(順行性、逆行性、対向性、伝播せず、消失)に従って分類しました。
van Gestelらの分類で「伝播せず(not propagated)」「対向性(opposing)」「消失(absent)」というのは、いずれも子宮内を一方向に流れるような明瞭な収縮波がない状態を意味します。
– 伝播せず(not propagated):子宮の異なる部位から無秩序に筋収縮が始まり、波として伝わらない状態
– 対向性(opposing):底部と頸部から同時に始まった波が子宮中央でぶつかり合い、相殺される状態
– 消失(absent):収縮自体がほとんど認められない状態
結果
排卵期および黄体中期のいずれにおいても、CE群と対照群で収縮パターンに有意差を認めました。
排卵期では、CE群対対照群で逆行性収縮が26.7% vs. 88%、順行性が24% vs. 0、対向性が22.7% vs. 12%、伝播せずが13.3% vs. 0、消失が13.3% vs. 0でした。黄体中期では、伝播せずが41.3% vs. 61.3%、対向性が24% vs. 25.4%、消失が16.1% vs. 13.3%、順行性が13.3% vs. 0、逆行性が5.3% vs. 0でした。EWの頻度については、両群とも黄体中期では大半の波が消失し頻度は同程度(CE群1.41回/分、対照群1.95回/分)でしたが、排卵期ではCE群の方が対照群より高頻度でした(3.65 vs. 3.17回/分)。
私見
排卵期の逆行性EWは精子輸送に関与し、黄体中期の子宮静止は着床促進に寄与するとされており(Kunz G, et al. Hum Reprod. 1996; Fanchin R, et al. Hum Reprod. 2001)、CEによるこれらの異常は不妊・着床不全の機序として理解できる可能性があります。
著者らはCEに伴う異常な子宮内リンパ球サブセットおよびサイトカイン・増殖因子・アポトーシス関連蛋白の転写制御異常(Matteo M, et al. Am J Reprod Immunol. 2009; Di Pietro C, et al. Am J Reprod Immunol. 2013)が、傍分泌的にJZの収縮性を変化させる可能性を推測しています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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