培養

2021.05.24

当院の媒精基準について(2021年5月現在:培養室の観点から)

体外受精において精子と卵子を出会わせる受精方法は、 
1. 媒精
2. 顕微授精
の2つがあります。
受精方法の決め方ですが、培養士説明会では、御主人からお預かりした精液を遠心分離して、回収出来た運動精子数(図中:底に沈んだ良い精子の数)が多ければ媒精を、少なければ顕微授精をお勧めすると、ざっくり説明しています。 

今回は、このざっくりとした部分の具体的な数字・根拠についてお話します。 

基本的に精子の数が少ない場合には顕微授精をお勧めすることになるので、逆に、精子数がどれだけ多くあれば媒精が出来るのか?に焦点を絞ってお話を進めます。 

当院で患者さんに提示している精子数と媒精出来る・出来ないは以下の3グループになります。
精液調整後の総運動精子数が、

  • 10万未満 → 媒精出来ない(媒精不可) 
  • 10-49万 → 媒精出来るがお勧めしない(媒精困難) 
  • 50万以上 → 媒精出来る(媒精可能)

これらの根拠となる2つのデータを以下に示します。 

このグラフは調整後の総運動精子数を10万未満、10-49万、50万以上の3グループに分けて、媒精後に受精卵が1個も得られなかった症例の割合を比較しています。調整後の運動精子数が10万未満となると、半分以上の患者さんが媒精後に1個も受精卵が得られませんでした。 

このグラフは調整後の総運動精子数を10万未満、10-49万、50万以上の3グループに分けて、媒精後の受精率を比較しています。調整後の運動精子数が10万未満となると受精率は19%と最も低く、10-49万では37%となり10万未満に比べて高くなるものの、50万以上のグループに比べて低くなりました。50万以上で受精率は最も高くなりました。 

以上、2つのデータの比較から調整後の総運動精子数が10万を下回った場合は「媒精出来ない(媒精不可)」とし、患者さんには顕微授精をお勧めすることになります。10-49万の場合は10未満よりは受精率は高くなりますが、50万以上に比べて依然として低いことから「受精出来るがお勧めしない(媒精困難)」とし、患者さんには媒精と顕微授精の両方の併用をお勧めすることになります。50万以上の場合は「媒精出来る(媒精可)」とし、患者さんには媒精をお勧めすることになります。 

これらのデータは700例以上の症例から算出しましたが、中には50万以上の運動精子が居る「媒精出来る(媒精可)」であったにも関わらず媒精後に1個も受精しなかった患者さん、10-49万の運動精子「媒精出来るがお勧めしない(媒精困難)」でも媒精後の受精率が100%であった患者さんも居らっしゃいました。患者さんには、これらのデータを目安に、起こりうる様々な可能性を考えた上で受精方法を決めて頂ければと思います。 

文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 生殖補助医療管理胚培養士)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 媒精(IVF)

# 受精

亀田IVFクリニック幕張 生殖医療事業管理部 培養管理室 管理胚培養士

平岡 謙一郎

亀田IVFクリニック幕張 生殖補助医療管理胚培養士。広島県立大学大学院修了(博士)。体外受精の中心となる受精・培養・凍結について専門知見に基づき紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

PVP:精子の動きをゆっくりにして、頭の形を確かめる

2026.09.12

媒精(IVF)の仕組み

2026.08.08

PIEZO-ICSIの安全性と有効性が大規模データで確認されました

2026.06.13

透明帯のない卵子への顕微授精(動画)

2026.03.14

異常受精1PNのお話

2025.02.01

培養の人気記事

卵子の大きさ

2025.03.08

精子の大きさ

2025.04.19

動画で見る受精現象の不思議(flare現象)(動画)

2023.02.04

光顕微鏡で見える卵子の紡錘体──角度で白と黒が入れ替わる小さな構造

2026.10.10

ヒト巨大卵子(giant oocyte)の判別基準としての細胞質直径は?(Fertil Steril Sci. 2022)

2026.07.22

大きな第一極体を有する卵子から得られた生児症例(Zygote. 2024)

2026.07.27

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08