治療予後・その他

2025.01.20

低所得国での双胎妊娠増加予測(Hum Reprod. 2024)

はじめに

双胎出生率(1000出産あたりの双胎数)は、過去数十年間で世界的に約10%増加しています。双胎出生率の変動は、主に二卵性双胎の割合によって左右されます。一卵性双胎は人口1000出生あたり3-4名と一定である一方、二卵性双胎は高齢出産と関連しています。高所得国では生殖補助医療の普及が双胎出産率増加の主な要因とされていますが、低所得国における変化についてはあまり知られていません。

ポイント

低所得国において、出生時の母体年齢高齢化により、2050年までに双胎出生率が増加し、2100年にはさらなる増加が予測されます。

引用文献

Lee DS, et al. Hum Reprod. 2024. Doi: 10.1093/humrep/deae276

論文内容

低所得国における母体年齢構造の変化と人口増加が将来の双胎出生率にどのような影響を与えるかを検討することが目的です。人口保健調査(DHS)および世界出生力調査(WFS)のデータに基づいて年齢別双胎確率を推定し、国連世界人口推計(WPP)で予測される高齢出生へのシフトに起因する2050年と2100年の双胎出生数の変化を推定しました。

結果

2050年までに大半の国で双胎出生率が2010年比で0.3%-63%増加、2100年までには双胎出生率が3.5%-79%増加すると予測されます。インドは人口規模が大きいため、2100年までに双胎出生が10.5%減少すると推定されるものの、双胎出生の最大シェアを維持しそうです。ナイジェリアは、著明な人口増加と高い双胎出生率により、2番目に多い双胎出生数になると予測されます。

私見

生殖補助医療の普及が遅い低所得国においても、母体年齢高齢化と人口増加により双胎出生率が増加する可能性を示唆しています。低所得国での双胎児は公衆衛生や医療不整備により児の死亡率や障害が残る割合が考えられるからです。高齢妊娠は胚の染色体異常が起こるため双胎にはなりにくいと思っていましたが、1970年代から高齢女性の双胎が増えることは立証されているようです(Bulmerら,1970、Searら,2001、Pisonら,2015、Rickardら,2022)。高齢妊娠の双胎が増える理由として、複数排卵や着床における免疫寛容が働く種の保存機構があるためと考えられています。このあたりを不妊治療に応用できたらいいのですが、なかなか難しい課題です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 多胎

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

慢性高血圧女性におけるアスピリンによる妊娠高血圧症候群発症遅延効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.17

アスピリンは妊娠高血圧症候群の発症を遅延させる(Am J Obstet Gynecol. 2019)

2025.06.02

HRT周期凍結融解胚移植における妊娠初期子宮動脈拍動指数は低値(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.05.30

日本人妊婦におけるFMFモデルを用いた妊娠高血圧症候群予測精度(Hypertens Res. 2021)

2025.05.27

治療予後・その他の人気記事

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

前置胎盤と低位臍帯付着部位は母体血圧と関連(BJOG 2011)

流産手術(吸引法 vs. 子宮鏡手術)の無作為化試験(JAMA. 2023)

子宮体がん初期の妊孕性温存治療についてのメタアナリシス(Am J Obstet Gynecol. 2024)

BRCA遺伝子変異と卵巣予備能(Fertil Steril. 2025)

甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)

今月の人気記事

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

2025.07.01

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

妊活男性のストレスと精巣機能(Fertil Steril 2025) 

2025.07.05

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04