
はじめに
片側卵巣摘出術(unilateral oophorectomy:UO)は、良性卵巣囊胞、子宮内膜症、卵管卵巣膿瘍、卵巣茎捻転などに対して行われる手術です。従来、「卵巣が1つ残っていれば妊孕性は十分に保たれる」と考えられてきましたが、結論が出ていないことが多々あります。これまでの報告では、片側卵巣摘出術により閉経が1~2年早まること、若年での片側卵巣摘出術後ほど影響が大きい可能性が示唆されてきました。一方で残存卵巣の代償機構を支持する見解もあり、自然妊娠への影響は重視されてきませんでした。今回、片側卵巣摘出術後の将来の出生可能性を、卵巣が両側保たれた女性と比較したスウェーデンの大規模人口ベース登録研究をご紹介いたします。
ポイント
良性適応の片側卵巣摘出術後女性は出生可能性低下と関連し、特に片側卵巣摘出術時に高齢・未産であるほど影響が大きい可能性があります。
引用文献
Tekla Lind, et al. Hum Reprod Open. 2026;2026(3):hoag041. doi: 10.1093/hropen/hoag041.
論文内容
良性疾患に対して片側卵巣摘出術(UO)を受けた女性において、卵巣が両側保たれた年齢適合女性と比較し、将来の出生の可能性がどの程度かを明らかにすることを目的とした、人口ベース登録研究です。
1955~1966年にスウェーデンで出生した全女性を生殖年齢終了(46歳または死亡)まで追跡しました。手術コードと良性疾患診断により、46歳未満で良性適応のUOを受けた女性をNational Patient Registerから曝露群として同定し、年齢・居住地域で適合させた最大1:10の対照群をTotal Patient Registerから抽出しました。悪性適応は、がん登録(Swedish Cancer Register)を用いて除外しました。当初17,856人の曝露群と171,731人の対照が同定され、除外後、良性適応でUOを受けた生殖年齢女性10,469人と年齢適合対照101,753人が解析対象となりました。主要評価項目はindex date(UO施行日)以降の少なくとも1回の出生とし、出生データはスウェーデン医療出生登録(MBR)から収集しました。統計解析は、二項分布・log linkのGeneralized Estimating Equation(GEE)モデルを用いてRRを算出しました。
結果
全コホートにおけるUO女性の術後出生率は、年齢適合対照と比較して低値でした(25.5% vs. 28.7%;RR 0.89;95% CI 0.86–0.91)。UO時に未産であった女性のサブグループ解析(N=4,083)では、未産対照(N=18,770)と比べ出生率の低下がより顕著でした(41.3% vs. 66.0%;RR 0.63;95% CI 0.61–0.65)。出生児数でも、未産UO群は1~2児が32.4%、3児以上が8.9%であったのに対し、未産対照ではそれぞれ50.1%、15.9%と少ない結果でした(P≤0.001)。
UO時年齢別の出生率(全コホート)は、≤25歳で72.9% vs. 81.3%(RR 0.90)、26~35歳で36.2% vs. 39.9%(RR 0.91)、≥36歳で3.1% vs. 3.6%(RR 0.85)でした。未産女性ではこの年齢依存性がより明瞭で、≤25歳でRR 0.89、26~35歳でRR 0.81、≥36歳でRR 0.60と、UO時の高齢ほど出生率が低下し、年齢群間に有意な交互作用を認めました(P=0.002)。
副次評価項目として、UO女性は不妊症診断(全体5.7% vs. 3.3%;RR 1.73、未産10.9% vs. 8.4%;RR 1.29)、不妊手術(全体1.3% vs. 0.5%;RR 2.57、未産2.6% vs. 1.5%;RR 1.75)、IVF治療(全体0.4% vs. 0.2%;RR 2.59、未産1.0% vs. 0.4%;RR 2.27)の頻度がいずれも有意に高い結果でした。
感度分析でも結果は安定していました。子宮内膜症(症例の18%)を除外しても出生率低下の関連は維持され(全体 RR 0.89;95% CI 0.87–0.92、未産 RR 0.66;95% CI 0.64–0.68)、術前不妊治療歴を除外しても変化しませんでした(全体 RR 0.86;未産 RR 0.62)。一方、index時35歳超を除外すると未産女性のRRは0.63から0.80(95% CI 0.77–0.82)へ縮小し、年齢の寄与が示唆されました。なお、術前不妊既往例を除外すると、UOと後の不妊との関連はRR 1.73から5.10(95% CI 3.95–6.59)へ強まりました。
私見
先行研究の立場は以下のように整理できます。
残存卵巣の妊孕性を支持(UOの影響は小さいとする立場)
- Khan Z, et al. Fertil Steril 2014:
UO後の残存卵巣で代償的な卵胞動員が起こることを報告。 - Wilkosz P, et al. PLoS One 2014:
卵巣予備能を独立した2系統とみなす数理モデルでは、UOの生殖寿命への影響は小さく年齢の重要性も低いと示唆。 - Lawley SD, et al. Biol Reprod 2023:
出生時の原始卵胞の「過剰供給」により、数十年にわたり安定した卵胞供給が保たれるとする数理モデル。
UOの妊孕性への悪影響を支持(本研究と一致)
- Lind T, et al. Hum Reprod 2018:
同一研究グループの多施設研究。IVF/ICSIを受けた不妊女性22,847人で、UO既往群は出生率が有意に低下。 - Rodriguez-Wallberg KA, et al. Fertil Steril 2022:
2021年までの全研究を統合したメタアナリシスで、UO後のIVF/ICSI予後低下を確認。 - Rosendahl M, et al. Climacteric 2017:
UOにより閉経が早まり、若年でのUOほど閉経が前倒しになると報告。
論考の中心は、UOが「卵巣予備能を半減させる手術」であることをどう解釈するかにあります。ただ、実際はそうではありませんが、生殖予後とは一定数関連がありそうというのは現在までの結論でしょうか。
片側卵巣摘出術は「妊孕性に無害」とはみなせず、特に生殖年齢終盤の女性では術前の妊孕性カウンセリングが推奨されると思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。