治療予後・その他

2026.09.29

油から考える早産予防:妊娠中のオメガ3脂肪酸(Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2022)

はじめに

早産の約2/3は明確な原因が分かっておらず、予防法の確立が大きな課題です。近年最も期待されている予防の一つが、妊娠中の母体が摂る「油の質」、すなわちオメガ3脂肪酸(魚に多いDHA・EPA)です。毎日の食用油やおかずの選び方が、出産時期に関わる可能性があるということです。今回、妊娠中のオメガ3摂取と早産の関係を多数の試験から整理したISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids/脂肪酸・脂質研究国際学会)のステートメントをご紹介し、どのような食生活が望ましいかを分かりやすく解説いたします。

ポイント

妊娠初期にオメガ3(魚のDHA・EPA)を十分に摂ると単胎妊娠の早産・早期早産が減りやすく、特にもともと不足している方で約1,000mgのEPA+DHA補充が有効そうです。

引用文献

K P Best, et al. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2022;186:102495. doi: 10.1016/j.plefa.2022.102495.

論文内容

ISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids/脂肪酸・脂質研究国際学会)によるエビデンス統合・指針文書(ステートメント)です。2018年Cochraneレビュー(70 RCT、19,927名)を基盤に、その後のRCTや他のシステマティックレビューを加えた「2021年Cochraneアップデート(80試験)」を根拠としています。妊娠中のあらゆる形態・用量のオメガ3 長鎖PUFA(DHA・EPA)介入を対照と比較したRCTを対象に、用量、DHAとEPAの比率、投与開始時期、ベースラインのオメガ3栄養状態が早産予防に与える影響を検討しています。

結果

2021年Cochraneアップデートでは、オメガ3 長鎖PUFA群は早期早産(妊娠34週未満)が35%減少し(RR 0.65; 95%CI 0.46–0.92)、早産(37週未満)が12%減少しました(RR 0.88; 95%CI 0.81–0.95)。平均在胎期間はわずかに延長し(平均差1.36日; 95%CI 0.77–1.96)、出生体重は平均71g増加しました(95%CI 39–102g)。SGAに差はなく(RR 1.02; 95%CI 0.93–1.13)、LGAはわずかに増加する可能性がありました(RR 1.13; 95%CI 1.01–1.28)。用量別(<500mg、500–1000mg、>1000mg)のサブグループ間に有意な交互作用はなく、妊娠20週以前の開始でより大きな効果がみられました。一方、一般集団を含む近年の大規模試験では、全体としての早産予防効果はほとんど認められませんでした。なかでもORIP試験(n=5544、豪州、900mg/日)は、主要評価項目である早期早産について試験集団全体では有意な減少を示さず、per-protocol解析でもITT解析と差がありませんでした。しかし登録時のオメガ3栄養状態で層別した二次解析では、低オメガ3状態だった女性で早期早産リスクが77%減少した一方(0.73% vs 3.16%; RR 0.23; 95%CI 0.07–0.79)、もともと充足していた女性ではむしろリスクが増加しました(2.20% vs 0.97%; RR 2.27; 95%CI 1.13–4.58)。中国の試験(n=5531)でも全体では早産抑制効果を認めず、低魚摂取者でのみ分娩遅延が観察されています。これらは、オメガ3補充の効果が集団全体ではなく、もともと不足している女性に限局すること、充足者への上乗せはむしろリスクとなりうる用量反応関係を示しています。本文では、EPAが子宮収縮や子宮頸管の熟化に関わる2系プロスタグランジンより作用の弱い3系プロスタグランジンの材料となること、DHA・EPAが子宮筋を弛緩させ炎症経路を抑えうることが、早産予防のメカニズムとして考察されています。

私見

食用油・食事の観点から本ステートメントを読み解くと、ポイントは「油の質」と「もともとの不足の有無」の二つに集約されると考えます。
増やしたいのは魚のオメガ3(DHA・EPA)です。本論文でも、週1〜2回の魚で1日約200mgのDHAが確保できると述べられています。肯定的な報告として、ORIP試験(Makrides M, et al. N Engl J Med. 2019)の二次解析やその基盤解析(Simmonds LA, et al. BJOG. 2020)は低オメガ3状態の女性で早期早産が大きく減少したと示し、米国のADORE試験(Carlson SE, et al. EClinicalMedicine. 2021)も低DHA状態でのみ高用量DHAの効果を認めています。
ただし効果は集団全体ではなく不足している人に限られる点が重要です。一般集団を対象とした近年の大規模試験は全体効果に否定的で(Olsen SF, et al. J Nutr. 2019/Serra R, et al. Nutrients. 2021)、充足者への上乗せはむしろリスクとなりうる用量反応曲線が示されています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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