
はじめに
生殖補助医療普及に伴い、その児の神経発達への影響が懸念されてきました。生殖補助医療で用いる外因性ホルモンが児の脳発達に影響しうるとの指摘や、単胎でも生殖補助医療では早産・低出生体重が増え、それが発達上の不利益につながるという報告があります。一方、これまでの多くの研究は規模が小さく追跡期間も限られ、背景にあるsubfecundity(妊娠しにくさ)を治療と分けて検討していませんでした。今回、米国の大規模コホート(NIH ECHO)を用い、subfecundity自体と不妊治療それぞれの寄与を切り分けて評価した研究をご紹介いたします。
ポイント
subfecundityは治療の有無によらず児の行動上の問題とASDに関連し、非IVF治療はADHDに関連しました。
引用文献
Kahn LG, et al. JAMA Netw Open. 2026;9(6):e2617324. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.17324
論文内容
不妊治療が児の神経発達と関連するか、またその関連が背景にあるsubfecundityに起因しうるかを評価することを目的とした、コホート研究です。
NIHのEnvironmental Influences on Child Health Outcomes(ECHO)コホートの母児ペアを対象とし、1998〜2022年に妊娠が成立した児を解析しました。subfecundityは、いずれかのパートナーにおける不妊相談・治療・診断歴、2回以上の流産歴、または避妊なしの性交を12か月続けても妊娠に至らなかった経験のいずれか、と定義しました。不妊治療はARTと非ART治療(排卵誘発薬、人工授精など)に分類しました。
評価項目は、行動の問題を測る2つの質問票(SDQ、CBCL)を統一した「外向性問題」スコア(攻撃性など外に向かう問題行動)と「内向性問題」スコア(不安など内に向かう問題)、自閉症様症状を測るSocial Responsiveness Scale(SRS)総スコア、および養育者報告による医師診断のASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如・多動症)を、2〜10歳で評価しました。
結果
15,382組の母児ペア(母親実数14,191人、分娩時平均年齢30.9歳[SD 5.33]、経産婦8,780人[57.1%])が対象となりました。ASDは876人(7.6%)、ADHDは819人(7.1%)に診断されていました。一般化線形モデルにおいて、subfecundityは外向性問題スコアとSRSスコアの上昇と関連し、全妊娠(外向性問題:b=0.47[95% CI, 0.14–0.81]、SRS:b=1.08[95% CI, 0.01–2.14])でも、自然妊娠に限定した場合(外向性問題:b=0.45[95% CI, 0.07–0.83]、SRS:b=1.12[95% CI, −0.09–2.34])でも認められました。subfecundityをもつ親の児はASD診断のオッズが高く(全体:OR, 1.27[95% CI, 1.03–1.57]、自然妊娠:OR, 1.31[95% CI, 1.04–1.64])でした。非ART治療で生まれた児は、subfecundityを伴う自然妊娠(OR, 1.77[95% CI, 1.16–2.68])および伴わない自然妊娠(OR, 1.54[95% CI, 1.05–2.25])と比較してADHDのオッズが高くなりました。ART治療では有意な関連は認められませんでした。
私見
ART児で観察される神経発達上の不利益は治療そのものではなく背景にある病態(適応による交絡)に由来する、という見解を支持しています。
肯定的(治療ではなくsubfecundityが主因とする立場) な文献は下記となります。
- Perros P, et al. Children (Basel). 2022
ART児の神経発達に関するシステマティックレビューで、観察された関連は適応による交絡や多胎・早産でおおむね説明されるとしています。 - Middelburg KJ, et al. Hum Reprod. 2009(Groningen ART cohort)
IVFそのものではなくsubfecundity(妊娠までの期間延長)が神経学的・認知行動発達に関連するとしています。
誰が・何歳で評価するかでも結果は動きます。
- Zhu JL, et al. Paediatr Perinat Epidemiol. 2011
問題行動を評価する人として教師・母親・子ども本人の3者を使いました。このうち教師が評価したスコアでは不妊治療児で問題スコアの上昇がみられましたが、母親が評価したスコアと本人が評価したスコアでは、治療の有無による差は認められませんでした。(今回の論文では母親評価)
治療種別で向きが異なる可能性もあります。
- Lyall K, et al. Paediatr Perinat Epidemiol. 2012、Hvidtjørn D, et al. J Epidemiol Community Health. 2011
非ARTでASDオッズ上昇、ARTでは上昇せず
臨床的には「治療手技そのものより、背景のsubfecundityやその原因が児の神経発達と関連しうる」という考えが大事だと思います。ただ、そのほかの交絡を含む可能性もありますので、断定はできない内容だと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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