治療予後・その他

2021.10.21

妊娠高血圧腎症はアスピリン内服で予防できる?(N Engl J Med. 2017)

はじめに

妊娠高血圧腎症は、母体および周産期の死亡や合併症の重要な原因となっています。1979年、妊娠中にアスピリンを定期的に服用していた女性は、そうでない女性に比べて子癇前症になる可能性が低いという研究結果がCrandonとIsherwoodによって報告されました。その後、妊娠高血圧腎症予防のための低用量アスピリンの有用性について30件以上の試験が行われ、これらの試験のメタ分析では、このような治療により妊娠高血圧腎症の発生率が10%低下することが示されています。 

現在までにわかっていることとして下記があります。 

  1. 妊娠年齢に関係なくアスピリン内服は妊娠高血圧腎症予防効果あること 
  2. 妊娠16週以前の方がアスピリン内服による予防効果が明確であること
  3. 高血圧合併妊娠には予防効果が認められないこと

ポイント

早期発症妊娠高血圧腎症ハイリスク女性に対する低用量アスピリン150mg/日の投与により、プラセボと比較して早期発症子癇前症の発生率が有意に低下しました。 

引用文献

Rolnik DL, et al. N Engl J Med. 2017 Aug 17;377(7):613-622. doi: 10.1056/NEJMoa1704559. 

論文内容

早期発症妊娠高血圧腎症のハイリスクを有する単胎妊娠女性を対象とした多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験です。英国、スペイン、イタリア、ベルギー、ギリシャ、イスラエルの13の周産期医療施設で実施されました。妊娠11週0日~13週6日に来院した全妊婦に対し、母体因子、平均動脈圧、子宮動脈拍動指数、母体血清pregnancy-associated plasma protein AおよびPGFを組み合わせたアルゴリズムによる妊娠高血圧腎症(PE)スクリーニングが提供されました。
早期妊娠高血圧腎症リスクが1/100を超えるハイリスクと判定された1776名の女性を、アスピリン150mg/日投与群またはプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付けました。試験薬は妊娠11~14週から36週まで毎晩就寝前に服用する指示がなされました。主要評価項目は妊娠37週未満の早期妊娠高血圧腎症での分娩としました。サンプルサイズは、妊娠初期が早期妊娠高血圧腎症の76%をスクリーン陽性率10%で検出することを前提に、低用量アスピリンがプラセボと比較して早期妊娠高血圧腎症の発生率を50%低下させるという仮説(プラセボ群7.6%、アスピリン群3.8%)に基づき、両側α水準5%、検出力90%で1600名と算出され、脱落を考慮して1776名に増員されました。 

結果 

合計152名が試験中に同意を撤回し、4名が追跡不能となり、アスピリン群798名、プラセボ群822名が主要解析の対象となりました。ベースライン特性に両群間で有意差は認められませんでした。
早期妊娠高血圧腎症はアスピリン群で13名(1.6%)に発生したのに対し、プラセボ群では35名(4.3%)に発生しました(アスピリン群におけるOR 0.38、95%CI 0.20~0.74、P=0.004)。治療効果の大きさは、スクリーニング時の推定リスク群間、産科既往歴による群間、参加施設の国間で一貫していました。同意撤回や追跡不能の参加者を考慮した感度分析でも、結果に実質的な変化はありませんでした。
服薬遵守は良好で、参加者の79.9%が必要錠数の85%以上を服用したと報告されました。アスピリン群では妊娠24週未満の流産が11例、24週以前の胎児異常による妊娠中絶が2例、24週で重度胎児発育不全と妊娠高血圧腎症による妊娠中絶が1例、24週以降の死産が7例、出生後28日以内の新生児死亡が1例、生存退院が776例でした。プラセボ群では妊娠24週未満の流産が12例、24週以前の胎児異常による妊娠中絶が4例、24週で重度胎児発育不全と妊娠高血圧腎症による妊娠中絶が0例、24週以降の死産が12例、出生後28日以内の新生児死亡が2例、生存退院が792例でした。
副次評価項目(妊娠34週未満、37週未満、37週以降の妊娠有害転帰、死産または新生児死亡、死亡および新生児合併症、新生児治療、不良な胎児発育)について、アスピリン群でのORと99%CIで治療効果を定量化しましたが、いずれの副次評価項目でも群間に有意差は認められませんでした。ただし、本試験はこれらの副次評価項目に対して検出力が不十分でした。 

私見

体外受精患者さまのうち、凍結融解胚移植では妊娠高血圧腎症が多いことがわかっています。今後、不妊治療施設、妊娠初期スクリーニング施設、周産期施設が連携して、より安心できる妊娠生活を行える体制を整えていく必要があると思っています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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