はじめに
片側卵巣摘出術や付属器切除術により単一卵巣となった女性は、原始卵胞のストックを急激に半減させるため、卵巣加齢の特異的モデルとされています。興味深いことに、これらの女性において閉経年齢は不変ないしわずかに早まる程度にとどまり、残存卵巣で卵胞動態に何らかの代償機構が働いていることが示唆されてきました。一方、外因性FSHに対する小卵胞の感受性は、卵巣刺激成績を規定する重要因子であり、Follicular Output RaTe(FORT)は前処置時の小卵胞プールの大きさに依存せず卵胞のFSH感受性を間接評価する指標として注目されています。今回、片側卵巣摘出が卵胞のFSH感受性をどう変化させるかをFORTを用いて検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
片側卵巣摘出後の残存卵巣では、対側ではなく同側との比較において卵胞のFSH感受性(FORT)が代償的に亢進している可能性が示されました。
引用文献
M. Grynberg, et al. Hum Reprod. 2023 Jun;38(6):1162-1167. doi: 10.1093/humrep/dead056.
論文内容
片側卵巣摘出術または付属器切除術により単一卵巣となった正常排卵周期を有する女性において、外因性FSHに対する小卵胞の感受性がFORT指標で変化するかを検証することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
対象は2014年から2021年に不妊治療または非緊急妊孕性温存目的で卵巣刺激を受けた22〜43歳の非PCOS、非子宮内膜症患者344名です。単一卵巣群は86名(手術からの平均期間52か月、範囲8〜156か月)で、年齢(±1歳)、卵巣刺激を施行した年度、FSH開始量(±50 IU)で1:3の割合でマッチングした両側卵巣保有患者258名を対照群としました。卵巣刺激は17β-estradiol前処置後にGnRHアンタゴニスト法で実施されました。月経周期3日目に血清AMHおよび小卵胞数(AFC、3〜12 mm)を測定し、トリガー日(dOT)に成熟卵胞数(PFC、16〜22 mm)を計測しました。FORTはdOTのPFC×100/小卵胞数として算出され、単一卵巣群のFORTを、対照群の両側卵巣を合算したFORTおよびマッチした対照群の同側一側卵巣のみで算出したFORTとそれぞれ比較しました。補助指標としてFOI(採卵数×100/AFC)およびOSI(採卵数×1000/総FSH量)も解析されました。
結果
単一卵巣群は対照群と比較し、血清AMH値(1.0 [0.5–2.1] vs. 1.8 [1.0–3.3] ng/ml、P<0.005)およびAFC(9.0 [6.0–17.0] vs. 13.0 [8.0–21.0]、P<0.001)が有意に低値でした。FSH開始量および刺激期間は両群同等でしたが、dOTでのPFCは単一卵巣群で有意に低く(3 [1–5] vs. 4 [2–6]、P<0.01)、採卵数(7.0 [5.0–11.8] vs. 9.0 [6.0–14.0]、P=0.005)および成熟卵子数(6.0 [3.0–9.0] vs. 7.0 [5.0–12.0]、P=0.04)も対照群で有意に多い結果となりました。一方、両側卵巣を合算したFORTでは両群間に有意差は認められませんでした(32.5% [14.0–50.0] vs. 30.4% [15.6–50.0])。FOIおよびOSIにおいても両群間に差はありませんでした。
対照群の同側一側卵巣のみとの比較では、単一卵巣群のAFC(9.0 [6.0–17.0] vs. 7.0 [4.0–11.0]、P<0.001)およびdOTでのPFC(3.0 [1.0–5.0] vs. 2.0 [1.0–3.0]、P<0.001)はいずれも有意に高値でした。FORTは単一群32.5% [14.0–50.0]、対照同側卵巣25.0% [10.0–50.0]で、単変量解析では有意差は認められませんでした(P=0.21)が、AMHおよびAFCで補正した多変量解析では、片側卵巣摘出後にPFCおよびFORT比が有意に高いことが示されました(それぞれP<0.001、P=0.002)。
私見
本研究は、片側卵巣摘出後の残存卵巣において、対側ではなく「同側一側」を比較対象とした際にFORTが亢進する点を示した点で示唆に富む報告です。これまで片側卵巣摘出後の卵巣刺激成績については、より高用量のゴナドトロピンを要するにもかかわらず採卵数が少ないことから、卵巣のFSH感受性低下が示唆されてきました(Al-Hasani, et al. Acta Obstet Gynecol Scand, 2003、Levi, et al. J Obstet Gynaecol Res, 2003、Hendricks, et al. Singapore Med J, 2010、Lass A. Hum Reprod, 2018、Rodriguez-Wallberg, et al. Fertil Steril, 2022)。しかし採卵数のみでは前処置時の卵胞プールサイズの影響を排除できず、卵胞個々の感受性を評価できないという限界がありました。
一方、Khanら(Khan, et al. Fertil Steril, 2014)は片側卵巣摘出後に残存卵巣で代償的卵胞リクルートが起こることを報告しており、本研究で同側比較におけるAFCが単一卵巣群で高値であった所見と整合します。FORTは出生率を含むIVF成績と正の相関を示すことが先行報告(Gallot, et al. Hum Reprod, 2012、Zhang, et al. Reprod Biomed Online, 2013)で示されており、単一卵巣女性における同側ベースでのFORT亢進は、卵胞数減少に対する代償機構として臨床的に意義をもつ可能性があります。実際、片側卵巣摘出後でも採卵数は減少するもののIVF成績は両側卵巣女性と同等とする報告(Khan, et al. Fertil Steril, 2014、Lass A. Hum Reprod, 2018)と本所見は親和性が高いと考えられます。
代償機構の本態としては、残存卵巣の小卵胞顆粒膜細胞におけるFSH受容体密度の上昇が推測されています。先行研究では、単一卵巣女性のper-ovaryおよびper-follicleでのAMH産生は対照と同等であり、AMHは代償機構の主要因子ではないとされています(Grynberg, et al. Hum Reprod, 2021)。本研究もまたAMHでは説明しきれない感受性亢進を示しており、顆粒膜細胞機能やFSH受容体多型(Perez Mayorga, et al. J Clin Endocrinol Metab, 2000)など、より分子レベルでの検討が今後の課題です。
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文責:川井清考(WFC group CEO)
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