治療予後・その他

2026.09.28

精液所見がIVF/ICSI出生児性比にあたえる影響(Fertil Steril. 2016)

はじめに

出生時の性比(secondary sex ratio:SSR)は、日本を含む多くの先進国でおよそ51%(女児100に対し男児105〜107)とされ、両親の年齢、戦争、地震、経済状況などの生物学的・環境的・社会的要因の影響を受けることが知られています。ARTにおいてはICSIや胚盤胞移植が性比に影響すると報告される一方、精子運動率や濃度といった精液所見が性比に及ぼす影響は明らかではありませんでした。受精日の精液所見と性比の関係を検討したIVF報告はこれまでになく、ICSIに関する報告もごく限られていました。今回、日本ART登録データを用いて精液所見と出生児の男女比の関連を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

IVF(媒精)では精子運動率が低いほど女児寄りになり、ICSIは精液所見にかかわらず女児寄り、胚盤胞まで育てて移植すると男児寄りになりそうです(いずれも差はごくごく小さい)。

引用文献

Arikawa M, et al. Fertil Steril. 2016. doi: 10.1016/j.fertnstert.2015.12.009.

論文内容

IVFおよびICSIにおいて精液所見が出生児の性比に及ぼす影響を評価することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。日本産科婦人科学会(JSOG)のART登録データを用い、2007年から2012年に新鮮単一胚移植後に出生した単胎児27,158児を対象としました。卵子提供・着床前スクリーニング(性染色体を含む)が禁止されている日本のデータであり、移植胚はすべて自己胚です。精液所見は受精日の射出精子の総運動率と濃度を評価し、WHO分類に従い乏精子症(濃度1,500万/mL未満)、精子無力症(総運動率40%未満)、乏精子無力症(両者の合併)を定義しました。主要評価項目は出生児の性比(男児の割合)とし、受精方法・胚移植時期(分割期/胚盤胞)・母体年齢・治療年・不妊診断・精子採取方法を変数として、ロジスティック回帰でcrude ORを算出しました(母体年齢・治療年で調整しても結果は変わらなかったため、crude ORのみ提示)。

結果

IVF(媒精)由来出生児は14,996児、射出精子によるICSI由来出生児は12,164児、非射出精子によるICSI由来出生児は646児でした。全体の性比は男児50.9%(95%CI、50.3–51.5)で、2012年の日本人全体(男児51.3%)と有意差はありませんでした(P=.20)。
受精方法別では、IVFが男児53.1%(女児46.9%)と男児寄りであったのに対し、射出精子によるICSIは男児48.2%(女児51.8%)、非射出精子によるICSIは男児47.7%(女児52.3%)と女児寄りに逆転し、IVFがICSIより有意に高値でした(crude OR 0.82;95%CI、0.78–0.86)。
胚移植時期では、胚盤胞移植が分割期移植より有意に男児寄りでした(男児52.9% vs. 49.9%;crude OR 1.1;95%CI、1.07–1.2)。
精液所見別では、IVFにおいて父が精子無力症である児は正常精子群より男児が少なく(男児51.0% vs. 53.4%;OR 0.91;95%CI、0.82–0.999)、運動率最下位五分位ではさらに男児49.6%と女児がわずかに上回りました。一方、精子濃度の五分位による差はなく、射出精子によるICSIでは運動率・濃度いずれのカテゴリーでも性比に差を認めませんでした。

私見

出生児の男女比が「IVFでは精子運動率が低いほど女児寄り」「ICSIでは精液所見にかかわらず一律に女児寄り」「胚盤胞まで育てて移植すると男児寄り」という3点に整理できることです。受精方法によって精液所見の効き方が異なる点が特徴といえます。
考察では、運動率が低いと女児寄りになる機序として、男性のホルモン環境(低テストステロン)や、ストレスがゴナドトロピン抑制ホルモンを介して生殖機能を抑制する可能性(阪神大震災後に精子運動率と男児割合が低下した報告:Fukuda M, et al. Hum Reprod. 1998)が挙げられています。ICSIで一律に女児寄りとなる理由としては、形態良好精子がX染色体を保有しやすくICSIでX精子が選ばれやすいこと(Setti AS, et al. Reprod Biomed Online. 2012)、IVFではY精子が受精に関与しやすいことが推測されています。非射出精子ICSIで最も女児寄りであった点は、AZF欠失例でY保有精子割合が低いことと関連づけられています。胚盤胞移植で男児寄りとなる理由は、男性胚の発育が速く選択されやすいこと、女性胚の着床後死亡率が高い可能性が示唆されています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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