体外受精

2026.10.30

慢性子宮内膜炎に関する国際エキスパートコンセンサス(Reprod Med Biol. 2026)

はじめに

慢性子宮内膜炎(CE)は、子宮内膜間質への形質細胞(ESPC)の異常浸潤を特徴とする局所的炎症性疾患です。子宮腔内の局所感染が主因と考えられ、抗菌薬治療によりESPCが消失し、その後の治療周期で妊娠予後が改善しうると報告されてきました。過去10年でCEは反復着床不全(RIF)や反復流産(RPL)への関与が注目されています。一方で、特異的症状を欠くこと、CD138が子宮内膜上皮細胞にも発現し過剰診断を招きうること、ESPC密度の閾値や観察視野数が未確定であることなど、診断上の課題が多く残されています。現時点でCEの確立した診断基準・臨床ガイドラインは存在せず、本研究はDelphi法を用いて国際的な専門家コンセンサスを構築することを目的としています。

ポイント

24項目中23項目でコンセンサスに到達し、組織学的診断の閾値として「ESPC≧5個/10高倍視野(≧0.5個/HPF)」が81%の同意を得ました。

引用文献

Kitaya K, et al. Reprod Med Biol. 2026;25(1):e70066. doi: 10.1002/rmb2.70066.

論文内容

CEに関する国際的な専門家コンセンサスステートメントを構築することを目的としています。
日本生殖医学会・女性生殖器特別委員会(CE担当)の10名のパネリストが包括的文献レビューを行い、CEに関する6つの領域、すなわち(1)疫学、(2)症候学、(3)病因・病態、(4)微生物学、(5)診断、(6)治療について、関連コメントを伴うステートメントを作成しました。修正e-Delphi法による2ラウンドの質問票調査を、31名の国際的専門家を対象に実施し、各ステートメントを評価しました。

結果

疫学、症候学、病因・病態、微生物学、診断、治療について、43の詳細項目を含む24項目中23項目が最終的にコンセンサスに到達しました。特筆すべきは、CEの組織病理学的診断における閾値として「ESPC≧5個/10高倍視野」が81%の同意率を得たことです。 
本包括的文献レビューおよびDelphi研究は、多様な国際専門家によるCEに関する実臨床的視点を提供しました。これらのコンセンサスステートメントは、CEの診断基準および臨床ガイドラインの基盤となる可能性があります。 

病理レポート改訂のための詳細推奨(Domain 5 を中心に) 

本論文は組織病理診断の標準化を強く志向しており、病理レポートの記載項目を見直す際の根拠として有用です。以下、本文(Statement 5A–5F)に準拠して整理します。 

  1. 検体採取法の記載(Statement 5A)  
    無症候不妊女性の組織病理診断には子宮内膜生検が推奨され、スメアやブラッシングは推奨されません。 
    RIF患者を対象とした小規模前向き研究(n=40)では、pipelle生検と掻爬の間に診断精度の有意差は示されませんでした。ESPCは均一に分布せず巣状に集積し、症例によっては基底層にのみ集積するため小検体では見逃されうる点が本文で指摘されています。レポートには採取デバイスと採取部位を明記することが望まれます。 
  2. 月経周期相・周期日数の記載(Statement 5E、5F、5B)
    特に重視している論点です。
    ESPCの検出率・密度は分泌期より増殖期で高く(複数研究で一致、同一周期内で増殖期と分泌期を比較した近年の研究でも裏づけ)、さらに同じ増殖期でも増殖後期より増殖早期で高いと報告されています。本文は「組織病理学的検査の結果は、生検が月経周期のいつ施行されたかに応じて詳細に記載し最適化すべき」と明記しています。 (分泌期特有の交絡)分泌期内膜に生じる表層の浮腫性変化や間質細胞密度の上昇は、ESPCの同定そのものを妨げうると述べられています(Statement 5B)。すなわち分泌期検体では「偽陰性(見逃し)」と「上皮・間質変化による誤認」の双方が起こりやすいことになります。 (レポートへの落とし込み)以下を推奨します。 
    • 採取日を月経周期日数(cycle day)で記載する。 
    • 周期相を増殖早期/増殖後期/分泌期に区分して明記する。 
    • 増殖期検体か分泌期検体かを判定文に併記し、本文の「採取相により異なる診断基準を適用すべき」に沿って、分泌期検体では低値時の解釈を保守的に行う旨のコメントを付す。 
    • 可能であれば、CEを積極的に確認したい症例では増殖早期での再生検を検討する旨を所見コメントに残す。 
  3. CD138免疫染色の併用と数値的根拠(Statement 5B)
    従来染色単独に比べCD138免疫染色の併用は、感度・特異度・観察者間/観察者内の一致度を改善します。
    CD138はメチルグリーンピロニン・H&E染色に対し優れ、OR 2.8、感度100% vs 75%、特異度100% vs 65%、観察者間一致96% vs 68%、観察者内一致93% vs 47%とされています。 
  4. CD138解釈上の注意(Statement 5D) 
    過剰診断の回避 子宮内膜の表層・腺上皮細胞もCD138を恒常的に発現します(染色強度はESPCより一般に弱い)。 
    標本作製条件や染色強度により上皮細胞をESPCと誤認し、CEの過剰診断を招きうるため、免疫染色と核染色(H&E等)の併用が推奨されます。 
    補完マーカーとしてMUM-1(IRF4)があり、上皮細胞に発現しない利点がある一方、活性化T細胞に発現する欠点があり、CD138/MUM-1二重染色が各々の短所を補いうると述べられています。 
  5. 染色条件・精度管理の記載(Statement 5C)  
    一次抗体の種類・希釈、二次検出系、切片の厚さ・面積・観察視野数や切片数が診断率に影響します。 
    クローンB-B4を1:1,000希釈で用いた研究ではCE有病率2.8%、1:100希釈では12–30%と、希釈条件で有病率が大きく変動しました。NordiQCの推奨プロトコル参照が望まれます。レポートには抗体クローン名・希釈倍率・染色条件の併記を推奨します。 
  6. 判定閾値と境界例の統合的解釈(Statement 5F)  
    (閾値)標準化された閾値・観察視野数は未確定ですが、後続治療周期の生殖予後を踏まえ、本コンセンサスでは「ESPC≧5個/10高倍視野(≧0.5個/HPF)」が81%の同意で推奨されました。なお「ESPC≧5個/HPF」は同意58%にとどまり、採用されていません。 
    レポートでは、(a) ESPC計数を「10 HPFあたりの個数」で報告し、(b) 観察したHPF数を明記し、(c) 上記閾値に基づく判定を付すことが望まれます。 (境界例の取り扱い—詳細)本文は、低値・境界値(<5個/10 HPF)の症例について、ESPC数のみで一律に判定せず、以下を統合して解釈すべきと述べています。 
    • 臨床歴(clinical history):RIF、RPL、原因不明不妊などの背景。CEはRIFで同意率97%、RPLで94%と関連が強く支持されており、背景病態は解釈の重みづけに影響します。 
    • 子宮鏡所見(associated hysteroscopic findings):strawberry aspect(イチゴ状外観)、focal hyperemia(巣状発赤)、hemorrhagic spots(出血斑)、micropolyps(マイクロポリープ)、edema(浮腫)の5所見。子宮鏡は低感度・高特異度のため、これら所見が陽性であれば組織学的CEの存在を支持する補強材料となります(一方、子宮鏡陰性は組織学的CEを否定できません)。 
    • 採取相:分泌期検体の境界値は偽陰性の可能性を考慮し、増殖早期での再評価を検討。  
      (治療適応)<5個/10 HPFの症例では、抗菌薬治療の要否は症例ごとに判断すべき(judged on a case-by-case basis)とされ、一律投与は推奨されていません。 
      【推奨レポート記載項目(まとめ)】  
      ①採取デバイス・部位 
      ②月経周期相+周期日数(増殖早期/後期/分泌期の区分と分泌期の解釈注記) 
      ③染色法(H&E+CD138±MUM-1) 
      ④抗体クローン・希釈・染色条件 
      ⑤観察HPF数 
      ⑥ESPC数(/10 HPF) 
      ⑦閾値(≧5個/10 HPF)に基づく判定 
      ⑧境界例(<5個/10 HPF)での統合的解釈コメント(臨床歴+子宮鏡5所見+採取相、治療は症例別)。 

私見

本コンセンサスの最大の臨床的意義は、施設間でばらついていたESPCの判定閾値を「≧5個/10 HPF(≧0.5個/HPF)」として国際的に81%の同意で明文化した点にあると考えます。この閾値は9研究(閾値1–50個/10 HPF)を統合したメタアナリシス(Santoro A, et al. Biomedicine. 2023)に由来し、≧0.5個/HPFと流産率の関連(RR 2.4、p=0.007)を根拠としています。ただし著者ら自身が明記する通り、これはエビデンスに基づく確定基準ではなく暫定的合意であり、外的妥当性の検証が必要です。参加者が東アジア(特に日本・中国)に偏在し非英語文献が除外されている点も一般化可能性に影響します。

治療面では、CE治癒を組織学的に確認した群でのみ継続妊娠率/出生率の改善が示され(OR 6.81、95%CI 2.08–22.24、I²=0%、p=0.001)、治癒確認のない治療では未治療対照に対し優位性を認めなかった(Vitagliano A, et al. Fertil Steril. 2018)点は、当院の「治療後の治癒確認」を重視する方針と整合的です。一方、治癒確認後の再生検まで行うべきか否か、再生検群と非確認群を直接比較した研究は依然存在せず、本コンセンサスでも未解決です。

当院がNGSベースの細菌叢診断とCD138免疫染色を基本重視しています。
保険診療との兼ね合い、費用との兼ね合いに応じて相談させていただいています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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