体外受精

2026.10.31

子宮内膜に対するストレインエラストグラフィの有用性(BMC Med Imaging. 2024)

はじめに

ストレインエラストグラフィ(SE)は、組織に用手的な圧迫・除圧を加え、生じる歪み(strain)から組織の相対的な硬さを推定する超音波エラストグラフィ手法で、乳腺・肝・甲状腺・前立腺など多くの臓器に応用されています。SEは婦人科用超音波装置に標準搭載される主要なエラストグラフィモダリティですが、良悪性の内膜病変への応用報告はあるものの、正常子宮内膜を対象とした検討はほとんどありません。子宮内膜は着床に関わる重要な因子であり、その物性を非侵襲的・半定量的に評価できれば、今後の内膜病変研究の基礎データとしての臨床的意義は大きいと考えられます。本研究は、正常女性の子宮内膜弾性をSEで半定量的に評価し、月経周期および年齢による差を検討したものです。

ポイント

ストレインエラストグラフィは月経周期に伴う子宮内膜の硬度変化(分泌期で内膜strain ratioが上昇=より柔らかい)を反映でき、内膜の柔らかさを評価する有用なツールとなり得ます。

引用文献

Shen G, et al. BMC Med Imaging. 2024;24:153. doi: 10.1186/s12880-024-01327-z

論文内容

正常女性の子宮内膜弾性をSE超音波で半定量的に評価し、その価値を検討することを目的とした観察研究です。
2021年11月から2022年12月に320名の女性ボランティアを募集し、最終的に20~40歳の200名を対象としました。組み入れ基準は閉経前で性交歴があり規則的月経周期を有する女性で、子宮内避妊具の使用、甲状腺機能異常・糖尿病、過去3か月以内の手術歴やホルモン薬使用、子宮内膜厚3mm未満、画像不良、経腟超音波で子宮・両側付属器に異常を認める例を除外しました。 装置はVoluson E6・E8・E10(GE Healthcare社)を用い、経腟用腔内プローブRIC5-9-D(5~9MHz)を使用し、全例を同一検者が施行しました。まず「Routine THI」プリセットで2D走査を行い、子宮正中縦断面の最も厚い内膜部位で、子宮内膜厚・内膜エコータイプ(A・B・C型;Gonenらの分類)・内膜血流グレード(0~3)を計測・記録しました。ROI径はすべて3mmに統一し、内膜の3つのROIは3mm間隔、筋層ROIは子宮底部で内膜辺縁から約2mmの位置に置きました。中央の連続3フレームの平均値を内膜・筋層のstrain値として算出し、基準ROI(子宮底部筋層)のstrain ratioは装置が自動的に1に設定しました。最終登録例を最終月経からの時期に基づき増殖期内膜群(83例)と分泌期内膜群(117例)に分け、月経周期間および年齢群間で各指標を比較しました。

結果

増殖期群(83例)と分泌期群(117例)で、年齢・BMIに有意差はありませんでした(いずれもP=0.943)。子宮内膜厚は増殖期群0.82±0.25 cmに対し分泌期群0.99±0.24 cmと分泌期で有意に厚く(P<0.001)、内膜エコータイプは月経周期に伴って分布が有意に変化していました(P<0.001)。増殖期群と分泌期群を比べると、エストロゲン優位の増殖期に多い三本線像(Type A)は18.1%から6.0%へ、中間型(Type B)も73.5%から53.0%へと、いずれも分泌期で減少しました。一方、プロゲステロン優位の分泌期に特徴的な均一高エコー像(Type C)は8.4%から41.0%へと約5倍に増加しました。すなわち、増殖期はType A・Bが大半を占めるのに対し、分泌期ではType Cが大きく増えるという逆転がみられ、増殖期(三本線)から分泌期(均一高エコー)への生理的移行を反映した結果といえます。これに対し内膜血流グレードには両群間で有意差を認めませんでした(P=0.557)。
SE指標では、内膜strain値は増殖期群0.22(0.16, 0.28)%、分泌期群0.22(0.15, 0.31)%で両群間に差はなく(P=0.923)、子宮底部筋層strain値も0.09(0.06, 0.11)% vs. 0.09(0.06, 0.13)%で差はありませんでした(P=0.235)。一方、両群とも内膜strain値は子宮底部筋層strain値より有意に高く(いずれもP<0.001)、内膜が筋層より柔らかいことが示されました。基準の筋層が1なので、内膜strain ratioが大きいほど「筋層に比べて内膜がよく変形する=柔らかい」ことを意味します。本研究では内膜strain ratioが増殖期0.40(0.30, 0.57)に対し分泌期0.47(0.33, 0.71)と分泌期で有意に高く(P=0.041)、これは分泌期に内膜がより柔らかくなっていることを示します。分泌期はプロゲステロン優位で間質浮腫が起こり内膜が肥厚・軟化する時期であり、この生理的変化と整合します。
年齢群(20~29歳 vs. 30~40歳)間の比較では、増殖期群・分泌期群いずれにおいても各超音波指標に有意差を認めませんでした(すべてP>0.05;なお分泌期群ではBMIのみ年齢群間でP=0.005と差を認めました)。

私見

SEは用手的に加圧・除圧して組織の歪み(strain)を測り、変形しやすいほど柔らかいと判定する半定量的手法で、加圧が検者に依存するため隣接組織との比(strain ratio)で相対評価します。SWEは超音波が起こすせん断波の伝播速度を測り、硬いほど速く伝わる原理で、用手加圧が不要で弾性率(kPa)等として定量的・客観的に評価できます。

注目すべきは、周期差の有無をめぐってSWEの先行研究自体が割れている点です。Manchanda S, et al. J Ultrasound Med. 2019. はSWEで月経周期間に有意差を認めなかった(P=0.176)一方、Sun Q, et al. Chin J Ultrasound Med. 2018. および Yu C, et al. Chin Gen Pract. 2020. は分泌期で内膜がより柔らかいことを示しています。本研究(SE)は後者と整合し前者と相違しており、結論の違いは測定する物理量・感度や周期判定法・症例数の差を反映すると考えられます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 子宮内膜厚、形態

# 子宮内膜胚受容能検査

# 基礎研究

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

移植前情報(体外受精)に関連するタグ

# がんと生殖医療

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# ビタミン

# 新鮮胚移植

# クロミフェン、AIなど

# 胎盤異常

# 不育症(RPL)

# ドナー・サロゲート

# 顕微授精(ICSI)

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# ホルモン調整周期下胚移植

# 初期胚移植

# サプリメント

# 低刺激排卵誘発法

# 慢性子宮内膜炎

# ハイリスク妊娠

# 細菌性膣症

# 帝王切開

# メトホルミン

# 凍結融解胚移植

# 多胎

# 子宮内細菌叢検査

# 帝王切開瘢痕症候群

# ラクトバチルス

# 年齢素因

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜ポリープ

# 凍結受精卵

# 卵子の評価

# 精液所見

# hCG

# 子宮内膜厚、形態

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 卵巣刺激

# マーカー・遺伝子

# LUF

# 子宮内膜症

# 妊娠糖尿病

# 良性腫瘍

# 卵巣予備能、AMH

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 子宮内膜胚受容能検査

# 妊娠高血圧症候群

# ロング法、ショート法

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 子宮鏡

# 子宮形態異常

# 反復着床不全(RIF)

# 体重、BMI

# 費用対効果

# 流産、死産

# 受精卵の評価

# 排卵周期下胚移植

# 胚質評価

# AI・統計的手法

# 手術

# 染色体

# 排卵誘発、トリガー

# 予防介入

# 疫学研究・データベース

# インスリン抵抗性、HOMA

# 生活習慣

# 胚盤胞

# 周産期合併症

# 異所性妊娠

# 精子DNA損傷検査

# 培養液

# 出生児予後

# 黄体補充

# タイムラプス

# 媒精(IVF)

# 基礎研究

あわせて読みたい記事

超音波6指標による子宮内膜受容能スコアリングシステムの開発(Front Endocrinol. 2022)

2026.11.03

PGT-Aは誰に実施されている?米国リアルワールドデータ(Hum Reprod Open. 2026)

2026.09.21

Nugent scoreは子宮内膜の細菌叢を反映する?(当院関連論文:Front Endocrinol. 2026)

2026.09.17

初回体外受精前の子宮鏡検査は出生率を改善する?inSIGHT試験(Lancet. 2016)

2026.07.13

既往帝王切開が体外受精治療成績に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.07.03

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

子宮内膜に対するストレインエラストグラフィの有用性(BMC Med Imaging. 2024)

2026.10.31

慢性子宮内膜炎に関する国際エキスパートコンセンサス(Reprod Med Biol. 2026)

2026.10.30

子宮内膜蠕動に対する超音波自動計測の試み(Front Physiol. 2022)

2026.11.02

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

今月の人気記事

micro-TESE不成功・無精子症の男性が、イソトレチノイン内服で自然妊娠——世界初の報告(Cureus、2025)

2026.05.16

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

子宮内膜に対するストレインエラストグラフィの有用性(BMC Med Imaging. 2024)

2026.10.31

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11