
はじめに
凍結融解胚移植(FET)の内膜調整法には、ホルモン調整周期(HRT)と自然周期(NC)があります。HRTは移植日程の自由度が高い一方で、黄体(corpus luteum)が形成されないため、流産率の上昇や妊娠高血圧症候群(HDP)・癒着胎盤(PAS)などの周産期合併症の増加が複数報告されてきました。今回、単施設の大規模コホートを対象に、IPTW-GEE二重頑健解析を用いてHRTとNCの周産期合併症を比較し、さらに施設の治療方針をNC優先へ転換したことによる臨床アウトカムへの影響を検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
単胎分娩において、自然周期はホルモン調整周期と比べ流産・HDP・PAS・帝王切開・分娩後出血のリスクが有意に低く、自然周期優先への方針転換は合併症の減少と関連していました。
引用文献
So S, et al. Fertil Steril. 2026. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.04.024.
論文内容
HRTとNCのFETにおける周産期合併症をinverse probability of treatment weighting(IPTW)とgeneralized estimating equations(GEE)を組み合わせた二重頑健的枠組みで比較し、加えてNCを積極採用する施設方針の変更が臨床アウトカムに与えた実臨床上の影響を評価することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
対象は、国内単一施設で2015年9月から2023年9月の間にFETを受けた症例です。当初12,670周期(HRT 5,350、NC 7,320)のうち、外因性ホルモンによる交絡を除外するためletrozoleまたはhMGで排卵誘発を行った修正自然周期(n=496)、追跡不能例(n=3)、BMI欠測例(n=298)を除外し、最終的に4,216人11,873周期(HRT 5,115、NC 6,758)が解析されました。妊娠例は妊娠5~15週で分娩施設へ紹介され、周産期合併症・新生児アウトカムは分娩施設から収集されました(収集率99.9%)。
内膜調整プロトコルは以下の通りです。
HRTでは、移植周期の月経開始後に、エストラーナテープ0.72mgを1回3枚、隔日で貼付してエストロゲン補充を開始しました。内膜厚≧7mm、血清E2濃度200pg/mLを目標とし、これを達成した時点(Day 0)でプロゲステロン補充を開始しました。黄体補充に用いた経口製剤はデュファストン錠で、全研究期間を通じて使用されました。腟剤については研究期間中に変遷があり、2015年以前は院内調製のプロゲステロン製剤が主体でしたが、2015年以降に市販製剤が使用可能となり標準治療として置き換わりました。市販腟剤には、ルティナス、ウトロゲスタン腟用カプセル200mg、ルティウム腟坐剤、ワンクリノン腟用ゲル90mgが含まれ、患者の希望に応じて選択されました。
NCでは、予測排卵日の数日前からホルモン値、卵胞径、経腟超音波での内膜所見を組み合わせて排卵時期を判定しました。卵胞径が十分でも自然のLHサージが検出されない場合はhCGを投与し、投与36時間後に排卵が起こると仮定しました。初期胚移植は排卵2日後(Day 2、2~6細胞期)、胚盤胞移植は排卵5日後(Day 5)に行いました。移植日に血清プロゲステロンを測定し、補充は移植日の血清プロゲステロンが著しく低値(胚盤胞移植で<5ng/mL)の場合のみ行いました(補充に用いた製剤は明記なし)。PASはFIGO分類に基づき分娩施設で臨床診断され、早産は妊娠37週未満の分娩と定義されました。感度分析として、低用量アスピリン(LDA)使用者を除外した解析と、経口・腟プロゲステロンの両方を黄体補充として投与した周期に限定した解析を行いました。施設方針転換の影響は、年間NC割合10%増加あたりの各アウトカムのaRRをGEEで推定しました。解析はR version 4.1.1で実施されました。
結果
IPTW後、すべての共変量が良好なバランスを達成しました(全SMD<0.1)。解析対象は4,216人由来の11,873周期(HRT 5,115、NC 6,758)です。まず妊娠初期アウトカムについて、臨床妊娠率はHRT群38.7%、NC群36.8%で有意差を認めませんでした(aRR 1.01、95%CI 0.96–1.06)。これに対し流産率はHRT群27.4%、NC群21.7%とHRT群で高く(aRR 1.26、95%CI 1.14–1.41)、出生率はHRT群27.7%、NC群28.3%とHRT群で低値でした(aRR 0.92、95%CI 0.87–0.99)。双胎出生率はHRT群2.8%、NC群1.6%で、点推定値は高いものの有意差はありませんでした(aRR 1.38、95%CI 0.88–2.18)。すなわち、妊娠の成立率は同等でありながら、HRTでは妊娠の維持(流産・出生)の面でNCに劣るという結果でした。
次に3,261例の単胎出生(HRT 1,376、NC 1,885)における周産期合併症です。妊娠高血圧症候群(HDP)はHRT群9.7%、NC群5.9%でHRT群が有意に高値(aRR 1.56、95%CI 1.21–2.02)、癒着胎盤(PAS)はHRT群7.4%、NC群1.3%とHRT群で約5倍に達しました(aRR 5.13、95%CI 3.25–8.12)。帝王切開はHRT群42.3%、NC群31.1%でHRT群が高く(aRR 1.38、95%CI 1.26–1.53)、経腟分娩における1,000mL以上の分娩後出血(PPH)もHRT群23.7%、NC群8.4%とHRT群で有意に高値でした(aRR 2.74、95%CI 2.08–3.63)。一方、妊娠糖尿病(GDM、6.8% vs. 5.6%)、前置胎盤(1.5% vs. 2.3%)、前期破水(PROM、10.8% vs. 9.3%)、胎児機能不全(NRFS、10.2% vs. 7.6%)、早産(7.8% vs. 7.1%)には群間で有意差を認めませんでした。
合併症同士の関連として、HDP合併例では非合併例に比べ帝王切開頻度が有意に高く(60.6% vs. 37.6%、P<.001)、PAS合併例では非合併例に比べPPH≧1,000mL頻度が有意に高値でした(52.3% vs. 12.4%、P<.001)。これらは、HRTで増加したHDPが帝王切開増加の一因に、PASが分娩後出血増加の一因になっていることを裏づけています。
新生児アウトカムでは、LGA児の割合がHRT群17.8%、NC群13.8%とHRT群で高く(aRR 1.32、95%CI 1.11–1.58)、SGAには差がありませんでした(5.1% vs. 5.6%)。
2,937例の正期産単胎に限定すると、低出生体重(≦2,500g)はむしろHRT群で低く(4.9% vs. 6.8%、aRR 0.72、95%CI 0.53–1.00)、巨大児(≧4,000g)には有意差がありませんでした。これらはHRTが胎児の過剰発育方向に働く可能性を示唆しています。感度分析の頑健性も確認されました。LDA使用者を除外した解析、および経口・腟プロゲステロン両方を投与した周期に限定した解析(Matched LPS)のいずれでも、主要アウトカム(流産・帝王切開・HDP・PAS・PPH・LGA)は主解析とほぼ一致しました。なお、主解析で有意でなかったNRFSはMatched LPS解析では有意となり(aRR 1.51、95%CI 1.10–2.07)、低出生体重はLDA除外解析で有意となりました(aRR 0.68、95%CI 0.49–0.97)。
最後に施設方針転換の影響です。NCの割合は2015年の14.0%から2023年の72.6%へと増加しました。年間NC割合の10%増加ごとに、重篤な周産期合併症であるPAS(aRR 0.80、95%CI 0.74–0.88)とHDP(aRR 0.90、95%CI 0.84–0.96)が大きく減少し、帝王切開(aRR 0.95、95%CI 0.93–0.98)、経腟分娩のPPH≧1,000mL(aRR 0.92、95%CI 0.86–0.99)、LGA(aRR 0.92、95%CI 0.87–0.97)も有意に減少しました。
なお妊娠率(aRR 0.97、95%CI 0.96–0.99)・出生率(aRR 0.98、95%CI 0.96–0.99)にもごくわずかな有意な低下が認められましたが、これはHRTとNCを直接比較したIPTW-GEE解析でNCの出生率が高かったこと(HRTのaRR 0.92)とは一見矛盾するように見えます。この経時解析での軽微な低下は、NC自体が妊娠成績を悪化させたというより、研究期間中の患者背景の変化(近年ほど高齢・難治例が増えるなどの時代効果)を反映した可能性が高いと考えられます。実際、その効果量はaRR 0.97〜0.98とほぼ1に近く臨床的にごく僅かであり、PAS(0.80)・HDP(0.90)の明確な減少幅とは対照的です。すなわち本解析は、NC優先への転換によって重篤な周産期合併症が明確に減少する一方、妊娠率・出生率はほぼ維持された(低下はごく軽微にとどまった)と読むのが妥当です。一方、流産・GDM・前置胎盤・PROM・早産・SGA・出生体重には有意な経時変化はありませんでした。
HRT群内の検討では、LDA使用群で非使用群に比べPAS頻度が有意に高い一方、プロゲステロン製剤の種類(院内調製→市販)や補充期間の延長は帝王切開・HDP・PAS・PPHのいずれとも有意な関連を示しませんでした。
私見
黄体補充の方法そのものについては、HRT群内でプロゲステロン製剤の種類や補充期間が周産期合併症と関連せず、Matched LPS感度解析も主解析と一致したことから、著者らはHRTでの合併症増加が補充方法ではなくHRT固有の生理学的特性(黄体欠如)に由来すると結論しています。
自然周期全例に切り替えるべきかですが、排卵障害例ではホルモン介入を要しますし、ハイリスクでなければHRTの方がスケジュール調整はしやすいです。
排卵がある症例では自然周期を優先しつつ、HRTが必要な症例では適宜しようしていく、将来的にはHRTで合併症があがらない対象群選択、合併症を下げる方法を検討することも必要なのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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