
はじめに
ガラス化は卵子・胚の発生能を低下させることが報告され、その一因として細胞内脂質含量の減少が示唆されています。融解液への脂肪酸(FA)添加が細胞内脂質を補い、β酸化を介して発生能を改善することを動物・ヒトで報告されていますが、症例数が少なく検出力が弱いという課題がありました。今回、タイムラプスによる形態動態評価と臨床妊娠成績の双方からFA添加融解液の有効性を検証した報告をご紹介いたします。
ポイント
分割期胚の融解液へのFA添加は胚盤胞への発生と単一凍結融解分割期胚移植後の妊娠成績を改善する可能性があります。
引用文献
Amagai A, et al. Reprod Med Biol. 2023;22:e12517. doi: 10.1002/rmb2.12517.
論文内容
「基礎研究」と「臨床研究」から構成されています。
基礎研究
凍結胚を浸す液(融解液)に脂肪酸(FA)を加えると、胚の育ちがよくなるかを調べた実験です。研究に同意の得られたカップルから提供された、廃棄予定のガラス化(凍結)された4細胞期のヒト胚217個を用い、脂肪酸を「加えた液(FA群)」と「加えない液(対照群)」のどちらかにランダムに振り分けて融解しました。融解後はタイムラプス(連続撮影できる培養器)で胚の育ち方を細かく観察しました。
臨床研究
2022年4〜9月に自然周期で単一凍結融解分割期胚移植(SVCT)を受けた女性の治療記録を後方視的に解析した研究です。4〜6月に従来の融解液を用いた群を対照群、7〜9月に脂肪酸添加融解液を用いた群をFA群としました。反復着床不全(25例)、人為的卵活性化(3例)、外科的回収精子(1例)を除外し、701周期701名を解析しました。
結果
基礎研究
良好胚盤胞になる割合が、FA群で有意に高くなりました(得られた胚盤胞あたり 58.6% vs. 76.4%; p=0.0302/融解した胚全体あたり 32.1% vs. 49.6%; p=0.0089)。また胚盤胞の内細胞塊(将来赤ちゃんになる部分)の質が悪い割合は、FA群で有意に少なくなりました(p=0.0069)。一方で、細胞が分裂していくタイミングや、異常な分裂・フラグメント頻度には両群で差がなく、脂肪酸の添加が胚の発育リズムを乱すことはありませんでした。さらに、胚盤胞が培養皿に着き、外側へ広がっていく力(着床のしやすさを試験管内で評価する指標)を調べたところ、広がった面積はFA群で有意に大きくなりました(p=0.0438)。融解液に脂肪酸を加えると、胚の発育リズムは保ったまま、より質の高い・着床する力の強い胚盤胞ができることが示されました。
臨床研究
移植胚の受精方法・割球数・形態グレード、患者背景(男女年齢・既往移植回数・不妊原因)は両群で同等でした。 着床率(29.4% vs. 37.4%; p=0.0252)、臨床妊娠率(25.9% vs. 33.8%; p=0.0223)、継続妊娠率(22.4% vs. 29.6%; p=0.0281)は、いずれもFA群で有意に高値でした。生化学的流産・初期流産率は両群で同等でした。 さらに多変量ロジスティック回帰では、融解液へのFA添加は継続妊娠の独立した規定因子であり(AOR, 1.46; 95% CI, 1.02–2.06; p=0.0340)、女性年齢も有意な規定因子でした(aOR, 0.92; 95% CI, 0.88–0.97; p=0.0017)。
私見
先行論文との対比という観点では、本報告を支持する直接的な根拠は同一グループによるOhata K, et al. Reprod Biomed Online, 2021(マウス・ウシ・ヒトでFA添加が発生能を改善)にほぼ限られます。
この論文の後、同一グループから論文が続いてpublishされていて、当院でも脂肪酸入り融解液を使用していますが良好な結果になっています。
①胚盤胞融解論文
Sawado A, et al. Sci Rep. 2024 Apr 23;14:9343. doi: 10.1038/s41598-024-60136-0.
②分割期胚融解論文
Kenji Ezoe, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2024 May 4;24(1):343. doi: 10.1186/s12884-024-06546-4.
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。